生きづらさの原因は家族だった? ネグレクト、母の再婚相手からの虐待……子どもが親の呪縛から逃げるまで『家族、辞めてもいいですか?』

マンガ

更新日:2021/12/1

家族、辞めてもいいですか?
『家族、辞めてもいいですか?』(魚田 コットン/KADOKAWA)

 「家族を辞める」という言葉はショッキングだ。学校や仕事を辞めるのとは、わけの違う深刻な響きを伴う。家族なんだから仲良くしなきゃ、という言葉のほうがしっくり来る人も多いだろう。でも、自分を苦しめる嫌な仕事や上司からは離れてもいいのに、家族だとそれは許されないのだろうか。我々にそんな問いを投げかける力作が、『家族、辞めてもいいですか?』だ。

 本書は、コミック漫画家の著者が自分の半生を綴ったコミックエッセイだ。主人公・コットンの母は、おしゃれでキレイで、尊敬できるお母さん。しかし、母はきょうだいの中でコットンにだけ「要領が悪い」「不真面目」「ワガママ」などと言い、コットンはそんな母の顔色をうかがって育つ。幼少の頃から目覚めたら家に誰もいないことが度々あり、姉と母がいない数日過ごすことや、夕食代がなく空腹をこらえる日も。父と母は不仲で離婚し、コットンは不登校になったり、家出をしたりするが、母からの関心を感じられずに成長する。

家族、辞めてもいいですか? P16

 小学5年生のある日、コットンは母の恋人「ツカサくん」から性的虐待を受ける。母にそのことを言えずにいるうちに、母は妊娠してツカサくんと結婚。その後も性的虐待は続くが、母の幸せを願うコットンは耐え、母を支えるために早く働かなければと使命感を抱く。しかし、コットンは母の言動に徐々に不信感を募らせ、大学入学を機に家を出る。家族を持ってからも母との関係は続くが、ブログで自分の体験をマンガで発表したことをきっかけに、「自分の生きづらさの原因は家族にあったのではないか」と思うようになる。

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家族、辞めてもいいですか? P150

 本書で描かれるのは、いわゆる機能不全家族だ。ネグレクトや性的虐待といった過酷な出来事からは目を背けたくなるが、本書は、似た経験を持つ人の共感を呼ぶだけのコミックエッセイではない。自分の体験を客観視したり、自身も子どもを持ったりしたことで、家族に「自分には価値がない」という思いを植え付けられたこと、母に認められずに、愛情をストレートに表現できなくなったことに気付き、判断力を取り戻すまでの思いが、力いっぱいに描かれている。子ども時代に自分が求めていたものに気付いた現在の自分が、子ども時代の自分の手を取り、「私はすごい」「自分を認めてあげよう」と語るシーンは涙を誘う。

家族、辞めてもいいですか? P174

 本書の冒頭では、母はキラキラと輝く存在として描かれている。そのシーンが象徴するとおり、親の存在は子どもにとって絶大だ。そしてそんな親への無条件の愛情は、大人になってからも尾を引く。つらい過去があっても、時が経てば関係が良くなることを期待してしまったり、良い親子関係への憧れを捨てきれなかったりすることは、親に複雑な感情を抱く人なら身に覚えがあるだろう。

 本書でも描かれているとおり、自分が生まれた家が特殊だとは気づきにくい。長い時間を過ごしてきた家族の問題に向き合うときは、感情的になってしまう人も多いだろう。しかし本書を読むと誰もが、こんな機能不全家族からは絶対に距離を置くべきだと冷静に判断できるはずだ。著者は、つらい過去を伝えるという身を切る表現で、他人だろうと家族だろうと、自分を傷つける人からは逃げていいんだと教えてくれる。家族に縛られて苦しんでいる人に、自分の家族を客観視して、一歩前に踏み出す機会を与えてくれる1冊だ。

文=川辺美希

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