保護猫の探し方、飼い方、生活の変化――「かわいい」だけじゃない、知れば知るほど幸せな出会いに近づく保護猫の世界『ねこ活はじめました』

マンガ

更新日:2021/12/8

ねこ活はじめました かわいい!愛しい!だから知っておきたい保護猫のトリセツ
『ねこ活はじめました かわいい!愛しい!だから知っておきたい保護猫のトリセツ』(オキエイコ/KADOKAWA)

 保護猫を含む猫との暮らしを描くマンガは数あれど、保護猫についてここまで掘り下げたコミックエッセイは読んだことがない。猫と暮らしたいと思う人が学べて、すでに猫を飼っている人にも読み応えのある骨太な1冊が『ねこ活はじめました かわいい!愛しい!だから知っておきたい保護猫のトリセツ』だ。

 本書は、保護猫に関する著者の体験談やレポートをまとめた1冊。SNSで出産や子育てについて発信してきた著者は、2020年に保護猫のしらすを家に迎えたことをきっかけに保護猫への関心を深め、Twitterで保護猫エピソードを募ったり、行政や団体へ話を聞きにいったりして保護猫をめぐる状況を取材。保護猫を探した体験談や取材レポートを、自身の猫に対する思いを交えて綴っている。

ねこ活はじめました かわいい!愛しい!だから知っておきたい保護猫のトリセツ P2

 冒頭には、メスの三毛猫・しらすが登場して自分と家族を紹介。カフェオレを飲んだように口の周りが茶色く、おとなしくてひっかき傷ひとつ作らないが、家を空ける時間が長いとすねたり、甘えるくせにこっちから行くと拒否するなど、猫好きにはたまらない性格の持ち主だ。しらすの面白かわいいエピソードももちろん楽しいが、本書はただ、保護猫との愉快な毎日を紹介するだけの本ではない。保護猫を飼いたい人が直面する壁や野良猫の避妊手術を行う現場など、「かわいい」だけでは向き合えない、保護猫をめぐる現実を伝えている。

advertisement
ねこ活はじめました かわいい!愛しい!だから知っておきたい保護猫のトリセツ P45

 第1章は、保護猫のしらすが家族になるまでの体験談。ペットショップで猫を探していた著者は保護猫という選択肢があると知り、動物愛護センターの講習会に参加。最初は子猫を希望していたが、前の飼い主からネグレクトにあっていた4歳のしらすと出会う。飼う前の準備や猫を家に慣らすステップなどが詳しく伝えられるとともに、獣医監修による猫の飼い方にまつわるQ&Aや、第2章には、著者のオキさんの家(しらす)のケースを漫画で、Twitterで集めた様々なケースをコラムで紹介しており、これから猫を飼いたい人に役立つ情報が満載だ。

ねこ活はじめました かわいい!愛しい!だから知っておきたい保護猫のトリセツ P113

 さらに、第3章ではトラウマを持つ保護猫を迎えた家や、多頭飼いのお金事情、脱走した猫が妊娠・出産したケースなど、4つの保護猫エピソードを紹介。楽しいだけではない、時には厳しく負担も多い保護猫との暮らしのリアルが綴られている。第4章の動物愛護センターの職員や、野良猫に避妊手術をする活動を行う団体など、日々保護猫に向き合う人々のレポートで伝えられる現実もシビアだ。子猫ではなくなりかわいくなくなったなど、身勝手な理由で猫を手放す人がいること。最後まで猫の面倒を見られるかどうか判断するため、職員から私生活を根掘り葉掘り聞かれて断念してしまう人もいること。2日で200匹の避妊手術を行うハードな現場。命と真剣に向き合う人々の仕事ぶりや想いに触れて胸が熱くなると同時に、動物と暮らすことの重さに向き合わされる。

ねこ活はじめました かわいい!愛しい!だから知っておきたい保護猫のトリセツ P130

 しかし本書は、ペットショップで買うことも含めて、どの動物との出会い方も否定していない。取材先の団体職員も自分に合う譲渡元を探すことを勧めている。動物を愛する人の思いを大事にする著者のスタンスが、本書の説得力を強めていると感じた。ちなみに筆者自身も、ある団体が設けた厳しい譲渡条件に面食らって断念し、近所の動物病院から保護猫を譲り受けた経験がある。その病院の獣医師が、猫に生活を合わせすぎず、無理なく一緒に暮らすことを勧めてくれたのが印象的だった。本書を読んで改めて、飼いたい動物を選ぶのではなく、自分に合った譲渡元を知るタイミングも含めて、縁に任せるのも素敵な出会い方だと感じた。保護猫を飼うための具体的なステップを伝えるだけでなく、動物との生き方について考えさせてくれる1冊だ。

文=川辺美希

あわせて読みたい