今月のプラチナ本 2012年11月号『かっこうの親 もずの子ども』 椰月美智子

今月のプラチナ本

公開日:2012/10/6

かっこうの親 もずの子ども

ハード : 発売元 : 実業之日本社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:椰月美智子 価格:1,728円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『かっこうの親 もずの子ども』

●あらすじ●

編集者として出版社に勤務する有坂統子は、4歳になるひとり息子・智康とふたりで暮らすシングルマザー。育児休業後に職場復帰したとたんに昔いた幼児誌の編集部へ異動となるが、まわりの理解もあり、子どもを保育園に預けながらも仕事と育児を両立している。35歳を過ぎ不妊治療の末に授かった子どもを出産後、夫と離婚した統子。ときどき孤独を感じながらも、智康とふたりで過ごす日々を精一杯生きているが、智康の突然の病気や、保育園のママ友との人間関係、実母との気持ちのすれ違いなど、悩みはつきない。そんなある日、統子は、旅雑誌のグラビアページに、智康とそっくりな双子の少年の写真が掲載されているのを見つけ、五島列島・中通島に向かう─。命とは、愛とは、絆とは……子育ての今、子育てのすべてを描き切った感動の家族小説。

やづき・みちこ●1970年、神奈川県生まれ。2001年に『十二歳』で第42回講談社児童文学新人賞を受賞し、02年に同作で単行本デビュー。『しずかな日々』で07年に第45回野間児童文芸賞、08年に第23回坪田譲治文学賞を受賞。著書に『体育座りで、空を見上げて』『みきわめ検定』『枝付き干し葡萄とワイングラス』『るり姉』『ダリアの笑顔』『恋愛小説』『純愛モラトリアム』『どんまいっ!』など。

実業之日本社 1680円
写真=首藤幹夫 
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編集部寸評

苦難の中にこそ、幸せがある

ものすごい密度に圧倒される小説だった。本書の帯には「子育てのすべてを描ききった感動作」とあるが、確かに「すべて」と感じさせられる内容。数多くの親子が登場し、その子どもたちの成長や病気、ママ友どうしの微妙なやりとり、不妊や子育てに対する夫婦間の考え方の違いなどなど、300ページ弱の小説とは思えないほど多様な出来事と感情が詰め込まれている(ほんの1行で、その裏にあふれる登場人物の気持ちを察せさせる文章の力!)。そしてこの混沌とした親子の有り様から浮かび上がる疑問がある。子どもを持つことは幸せか、不幸か。本書に描かれているとおり、子育てはいら立ちと不安の連続で、しかし時おり、この子がいてくれてよかった、と心底から思える瞬間がある。苦難と喜びの量を比べて、前者が多いから不幸、とは言えないのだ。苦難の中にこそ幸せがあり、その一瞬の奇跡的なきらめきを、この小説は確かに感じさせてくれる。

関口靖彦本誌編集長。子どもを持たない読者も、かつては自分が子どもだったはずで、本書から感じ取れることがたくさんあると思います。すべての人におすすめ!

子育ての痛みや戦いを知らない人に

こんなタイトルをつけておいて、私も知らない。親になる人生と親にならない人生は、天と地ほどにも違う。それが本書を読んだ実感だった。「子どもを授かって、その子が無事に生まれて育ってゆくっていくのは、並大抵のことじゃないんだよね」。豊かで便利な世の中になっても、一人ひとりの親にとってそれは変わらない現実なのだろう。シングルマザーの統子が日々の仕事の忙しさや疲れからおもらしをしてしまった息子についつい声を荒げてしまい、息子の優しい言葉に号泣してしまうシーンには、たいへんだなあと思いながらも少し羨ましかった。人は「自分の人生」しか生きることができないけれど、子どもを持つことによって、それを何倍かにすることはできるのではないか。湧き上がるさまざまな感情は子育てという苦労に対するご褒美なのかもしれない。智くんと統子のやりとりがとっても素敵なので、私のように子どものいない人に読んでほしいと思った。

稲子美砂特集、たいへん楽しく作らせていただきました。よしながふみさんをはじめ、多数の作家・マンガ家の皆様、ご協力ありがとうございました

最初から最後まで号泣する本

私には男の子どもが二人いる。朝も夜も戦争だ。常にガミガミ言って暮らしている。この物語は、そんな私の強張った身体と心を滋養たっぷりの言葉で溶かしてくれた。うちの子はのろのろしているんじゃなくて、あたたかで素朴なやさしさでいっぱいだったんだ、私のいらいらで、子どもはひどく傷ついていたんだ、というように。著者は言う。「子どもを持った瞬間から、世の中は怖いものだらけになってしまった/世の中はまともじゃない人のほうが多いんだからさ/子どもっていうのは、出し惜しみしないからいいんだよな/自分の岐路はいつだったのだろうと考え、それはやはり、智康を生んだことが最初のそれのように思えた/問題がない親子なんて、どこにもいないのだ」と。そのひとつひとつが私の“今”に重なる。そして同じように思うのだ。「この手が決して離れることのないように、この奇跡がずっと続きますように」と私も子どもたちの手を強く強く握る。

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命と出会いの必然を描いた感動作

電車の中で、喫茶店で、読みながら我慢しようと思ってもどうしても泣けてきて、でも、ページを繰る手を止められず、一気に読んだ。私には子どもがいないが、子どもを産むならもう焦らないといけない年齢だ。いざ子どもがほしいと思った時にできなかったら、自分は一体どうするのか、日々想像する。だから、前夫の阿川とともに決断し、AID(非配偶者間人工授精)で子どもを産んだ統子が、その後、シングルマザーとして息子を育てながら葛藤する様を、未体験ながらも真に迫って感じられたし、考えさせられた。そして、息子の智康が、最後に統子に投げかけた言葉に、自分でも驚くほどに胸を打たれ、涙が止まらなかった。命や人の縁の不思議さ、偉大さについて、読み始めた時には想像できなかった広い視野を得たような思いがした。命とは、縁とは、とてもちっぽけな自分の思惑では測れないものだと思った。子どものいない人にもオススメしたい物語だ。

服部美穂今月は、原田マハさん、ヤマザキマリさんと、年上の素敵な女性作家に立て続けに取材させてもらった。かっこいい先輩女性に会うとパワーもらえますね

子を思い、親を思う

親を尊敬している。仕事と家庭を両立し、赤子を大人にするまでどんな苦労があるのだろう。魔法のようだ。周囲の協力と理解の上に成り立っていることかもしれない。けど、子供を授かった瞬間に変わる何かがある、と感じる。今の私に同じことができるかと考えてしまう。統子は息子を心から愛している。ゆえに我慢できないこともあるし、間違いもある。自己嫌悪に陥る統子、健気なトモくんを見ていると、どんな子供も素晴らしいのと同様に、どんな親も正しく思える。

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家族とのつながり

ふつうに大人になり、ふつうに働く。そんなことすらも難しく感じる私には、きちんと子どもを育てながら働いている世の中のお母さんたちを、無条件に尊敬してしまう。そして親に精一杯のありがとうを伝えようとする子どもを見ると、なんだか少し泣けてくる(この作品のトモくんは特にそうだ)。人にはそれぞれの社会があり、事情がある。だからときには大人気なく感情的になったりもするが、それを受け止めてくれるのが家族なんだなぁと、しみじみ思った。

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母になった全ての女性に尊敬を

子どもが欲しいと願う人、子どもを産もうと決意する人、どちらもすばらしいし尊敬する。でも、情報が氾濫する現在、出産・子育てがどれだけ大変でリスクをともなうか、事前に知識として頭に入ってしまう。愛情や義務だけでは乗り越えられない山だ。本書は、それを乗り越えて親となる人へのエール。トモくんがママである統子に教えてくれた、生まれるときの秘密。こんなことを我が子に言われたら、それまでの大変だったことなど吹き飛んでしまうような気がする。

鎌野静華今年の夏もようやく終わり。暑さ対策で髪を結ぶためカットを我慢していたのですが、ようやくバッサリいけそうでうれしい!

ありふれた姿の一つ一つが奇跡

迷って、不安で、それでも母としてひたむきに生きていく。もがきながらの日々でありながら綺羅綺羅しい、そこにあるのはありふれた、でも奇跡なのだ。智康がいい子で泣かされたけど、でもこんないい子じゃなかったとしても、きっとお母さんはあなたが大好きだよ。元夫・阿川の救いを描いてくれたのが嬉しかった。途轍もなかった劣等感と折合いをつけたかもしれない姿。よかったと心から思う。連綿とつながる命の身勝手さと尊さを、厳しくもあたたかく描いた快作。

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親子の絆は所与ではない

己の根底を揺るがす出会いというのが、人生にはいくつかある。母親にとっては我が子との出会いも、その一つなのだろう。「我が子が絡むと親は理性がなくな」り、「むき出しになった感情だけが突っ走る」。親としての自分と、一人の人間としての自分。その間でバランスを取り、ときに取り損ねながらも必死で生きていく統子たち母親の姿を見て“子どもが感じる愛情の何十倍ものそれが、母親からは注がれているのだ”と、読んでいてたびたび目頭が熱くなった。

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子どもを持つことの尊さ

私には子どもがいない。親になることは自分を犠牲にすることなのか?とも考える。本作はある問題が浮上するも、子育てをすれば誰もが経験するだろう日常の日々をリアルに描いている。「こんなに清らかで、安らかな気持ちになれるのは、すべて智康のおかげです」と統子は神様に、言う。たぶん、子どもを持つこととは、今の私の中には全くない、純粋な救われる瞬間を幾度ともらえることなんだろう。今作には全ての親に向け作者からのエールがちりばめられている。

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働くお母さんは神々しい

他人事ながら、働くお母さんは何かを「超える」のだと思う。本書はシンプルに言えば、母の葛藤を描いた話だ。表現は柔らかだけど、内容は結構きつい。息子の病気と仕事のトラブルが重なり、寝不足続き。主人公はつい夜中に怒鳴ってしまい、自己嫌悪。ああ、読んでいてつらい。母はなぜかくも「完璧」でなければいけないのか。以前、多くの働く母親の話を伺ったことがある。皆さん一様に菩薩のような顔をしていた。今思うと、「超えて」きた人だったんだなあと思った。

亀田早希特集を担当。ご関係者皆さまのよしながさんへの愛情をひしひしと感じました。ご協力、ありがとうございました!

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