おそるべし、味噌汁の力。「一汁一菜」の土井善晴が初の親子共著で伝える、食で自分を整える方法

暮らし

更新日:2021/12/6

お味噌知る。
『お味噌知る。』(土井善晴、土井光/世界文化社)

 体にとって日々食べるものが大事と思うからこそ、食事作りのハードルが上がりストレスを感じてしまう。そんな人の多くが、料理研究家・土井善晴氏が伝えた「一汁一菜」の考え方に救われたはずだ。書籍『一汁一菜でよいという提案』で土井氏は、ふだんの食事は、おかずを兼ねた具沢山のお味噌汁とご飯やパンなどの主食で十分だと提唱。ご飯を炊いて、家にある具材を入れた味噌汁を作るだけという、体によくて無理のない食事作りは、忙しい現代人を料理の負担から解き放ち、広く受け入れられた。

 そんな「一汁一菜」の核を成す味噌汁の力を掘り下げたのが、土井善晴氏と、娘で料理研究家の土井光氏の共著『お味噌知る。』(世界文化社)だ。基本のお味噌汁、応用の作り方や具材の使い方に始まり、「家族の味噌汁」「季節の味噌汁」「スペシャルな味噌汁」といったテーマで、幅広く味噌汁や味噌を使った料理を紹介。さらに両氏による、健康効果など多方向から味噌汁の力にフォーカスしたコラムも盛り込まれている。

お味噌知る。
野菜とソーセージの味噌汁 撮影:ジョー

お味噌知る。
そうめんの入った味噌汁 撮影:ジョー

 玉ねぎやじゃがいもなどを使った定番の味噌汁から、『一汁一菜でよいという提案』を読んだ人にはおなじみのソーセージやハムなどの洋の具材を入れた味噌汁、そうめんやうどんが入ったボリューム満点の味噌汁など、味噌汁好きにはたまらないレシピが並ぶ。味噌汁と合わせる発想が湧きにくいサンドイッチやハンバーグ、ナポリタンといった洋食向けのレシピなど、味噌汁の概念を覆す提案も面白い。豆腐やわかめなどの定番の具材に慣れ親しんだ人も、味噌汁を作るのがより楽しくなりそうだ。

advertisement

 巻末の22ページに及ぶ善晴氏のコラムをはじめとした、レシピ本の付属物の域を超えたテキストも圧巻だ。善晴氏は、地球の未来を変えるためには、ひとりひとりが自立して自由を手にすることが必要と言う。そしてその土台を作るのが、「自分で作って食べること」だ。地球上に起きている問題に対して我々ができることは、家族を大事にすること、そして料理を作ること。だからこそ、難しい技術は必要のない一汁一菜を勧めている。「料理と地球」なんて大げさだと思うかもしれないが、そんな人は本書で、味噌や食事作りに対する善晴氏の深い考察と、心躍る味噌汁レシピに触れてほしい。きっと、味噌汁の持つ想像以上の力に息をのむはずだ。

お味噌知る。
ハンバーグと、トマトの味噌汁 撮影:ジョー

お味噌知る。
サンドイッチと、牛乳の入った味噌汁 撮影:ジョー

 7年のフランス滞在を経て3年前から父と仕事をする土井光氏が持ち込む、20代、30代の若い年代の視点も、本書に説得力を与えている。光氏は、SNSにたくさんのレシピが溢れ、冷凍食品やインスタントに慣れ親しんだ平成世代には、食事作りに対する新しい格闘があると言う。選択肢が多く迷える世代だからこそ、簡単で毎日続けられる上に、アレンジも楽しめる味噌汁は唯一無二だという指摘は腑に落ちた。光氏いわく、本書は著者両氏が考案したレシピというより、「『おいしいもの研究所』(土井善晴事務所)で働いているスタッフの方々や家族の日々の生活で出てきたものをまとめた、という方がなんとなくしっくりきます」とのことだが、光氏によって、食材選びやアレンジの方向性など、若い世代の生活にも取り入れやすい工夫が盛り込まれているのだろう。

お味噌知る。
味噌のおむすび 撮影:ジョー

 読んだ後は、味噌汁好きも、食事は丼ものや麺類だけで済ませてしまうという時短派の人も、「明日、味噌汁に冷蔵庫にあるあれを入れてみよう」と思うのではないだろうか。味噌汁があるこの国に生まれてよかったと、誇らしい気持ちになれる1冊だ。

文=川辺美希

あわせて読みたい