理性と欲望がせめぎ合う主従ラブロマンス『かみさまとふたりきり』

マンガ

公開日:2021/12/4

かみさまとふたりきり
『かみさまとふたりきり』(朝海いるか/白泉社)

 報われない恋はつらく苦しいものだけど、片思いしている時間が実はいちばん楽しい、ということもある。自分の都合だけで完結できるし、相手の素敵なところだけを見つめていられるからだ。それに、相手を大事に想えば想うほど、自分の欲望で穢したくないというジレンマも生まれる。自分ごときが対等な存在になっていいはずがない、と勝手に線を引いてあきらめてしまう。そんな経験をしたことのある人も、多いんじゃないだろうか。『かみさまとふたりきり』(朝海いるか/白泉社)は、主従関係にあるがゆえに、よりいっそう恋に踏み出すことのできない少女・ミアが主人公の物語である。

 幼いころ、ミアは孤児のため、盗人と勘違いされて捕らえられそうになったところを、ジョシュアという男に救われた。悪政を敷いた領主の息子である彼は、父親同様、忌み嫌われる存在だったけれど、自分の無実を証明してくれた彼が、ミアには神様に見えた。5年前、領主夫妻が亡くなり、街には平和が戻ってきたものの、あんな悪魔に育てられた人間がまともなはずがないとジョシュアは、相変わらずの嫌われ者。念願かなってジョシュアの家で使用人の職を得たミアは、心を尽くして彼に仕え、少しでも町の人に彼のすばらしさをわかってもらおうと、盛大にバースデーパーティを開こうとするのだけれど、ジョシュアはプレゼントとしてこんな要求をするのだ。「僕はミアの恋が欲しい」。

 それは告白以外の、なにものでもない。けれど身分に釣り合いがとれない、というだけでなく、ジョシュアに対する崇拝の強すぎるミアには、彼と自分を同格の存在としてとらえるなんて、とてもできない。ジョシュアが自分を本当に好きでいてくれているのだと気づいたあとも、おそれおおくて現実を受け止められないし、自分の欲望で神様を穢すなんてとてもできないとうろたえる。……だが、ひとたび自分の気持ちを自覚してしまっては、止められないのが恋心というもの。ジョシュアの瞳にうつる自分を、ふれられる手のぬくもりを、知ってしまったあとでは引き返すこともできない彼女の葛藤が、ういういしくてかわいらしい。そんな彼女を一心に見つめ、天罰があたると怯える彼女に〈君の神様は僕なんでしょう? 罰したりしないよ〉〈なんだって赦してあげる〉と迫るジョシュアにも、ときめかざるをえないのである。

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 ちなみに同巻に収録されている「戀をよる」という短編も、自分の気持ちに素直になれない少女・綸の物語。運命の赤い糸が見える力をもつ彼女は、自分の小指とつながっている少年・兎月に幼いころから恋をしていて、婚約しているのだけれど、家のしきたりで自分に従うことがさだめられている彼は、本当はいやなのに逆らえないだけでは? と日々不安を募らせている。結果、天邪鬼な行動に出てしまい、神様の怒りを買って赤い糸を断ち切られてしまうという、ややファンタジックなストーリー。あわせて読むと、自分の「好き」に素直になるって大事だな……としみじみ思わされる。素直な恋心を忘れかけている人は、ぜひ。

文=立花もも

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