月収11万円で小さく暮らす主人公を描く『しあわせは食べて寝て待て』

マンガ

更新日:2021/12/13

しあわせは食べて寝て待て
『しあわせは食べて寝て待て』(水凪トリ/秋田書店)

 2021年11月16日に水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』(秋田書店)の最新2巻が発売された。本作は、38歳独身女性の麦巻さとこが主人公だ。さとこは、突如一生付き合っていかねばならぬ病気にかかってしまい、それまで勤めていた会社を辞め、週4のパート暮らしをすることになった。収入の都合で、家も築45年・家賃5万円の団地に引っ越すことに。先行き不透明で落ち込んでいるなか、団地の大家である美山さんや、美山さんの家に居候しているニートの司と出会い、薬膳を知る。自分なりの楽しみを見つけて、「できない自分」を受け入れていく物語だ。

 苦労もきちんと描きながら、薬膳のことなど生活のちょっとしたアイデアにも触れられている本作。自分の責任ではなく、どうしようもない事情で厳しい状況に置かれてしまった主人公・さとこが、やさしい人間関係にも恵まれてたくましく生きていく様子は、読んでいて励まされる。本記事では、本作の魅力を2つの視点から紹介する。

月収手取り11万円で暮らすさとこ

 最近、さとこのようにパート生活で、月10万円前後の収入で暮らす様子を撮影したYouTube動画が流行っているように見受けられる。また、つい最近では「手取り13万」がTwitter上でトレンド入りし、ネット上でさまざまな議論がわき起こった。本作の主人公・さとこの給与も手取り11万円だ。

advertisement
しあわせは食べて寝て待て
(C)水凪トリ(秋田書店)2021

 さとこの前職の給与では支払えていた家賃も、手取り11万円では支払いが厳しくなり、築45年・家賃5万円の団地に引っ越している。生活費なども切り詰めているように思うが、それでも赤字という状況……。

 しかし、不幸かというとそうではない。体調の都合で週に4日しか働けないものの、自分のできる範囲で淡々と暮らしている。また、職場の同僚や美山さん、司との交流によってひとりで悩みすぎることなく、薬膳など新しい発見もしながら毎日を過ごしている。

しあわせは食べて寝て待て
(C)水凪トリ(秋田書店)2021

 お金がないならないなりに、ちょっとした節約や工夫をしながら生活できる。例えば、穴の空いた靴下を捨てるのではなく、綺麗な糸で繕うこと。口にあわなかった味噌を豆腐の味噌漬けなどに使うこと。本作には、縫い方などの説明も描かれている。

 余談だが、YouTube動画というと、日々のルーティン動画も人気だ。最新2巻では、さとこの朝のルーティンも描かれている。

しあわせは食べて寝て待て
(C)水凪トリ(秋田書店)2021

しあわせは食べて寝て待て
(C)水凪トリ(秋田書店)2021

できない自分を受け入れるネガティブケイパビリティとは

 本作で注目したいもう1つの視点は「ネガティブケイパビリティ」だ。自分では対処しようのない状況に耐える能力を意味するこの言葉に初めて触れたさとこは、体調のせいで思うように動けない自分が少し救われたと感じる。

しあわせは食べて寝て待て
(C)水凪トリ(秋田書店)2021

 そして最新2巻では、前の職場の同僚から会社に戻らないかと誘われる。前の会社に戻れば給料も上がり、生活が楽になることはわかっている。しかし、今の生活を振り返ったさとこは、その申し出を断ることに。団地に引っ越し、周囲の人との関わりを経て、今の自分を受け入れることができるようになっていた。

しあわせは食べて寝て待て
(C)水凪トリ(秋田書店)2021

 新しい生活で見つけたさまざまな小さな幸せを積み重ねていくさとこ。最新2巻では司の友達で同じくニートの八つ頭さんや、団地に引っ越してきたイラストレーターの高麗さんとの関わりも描かれる。彼ら彼女ら、職場の人たちなどとの関係性の今後の深まりや、2巻の最後での司の行動の意味も気になるところで、続きが待ち遠しい。

文=村治けい

あわせて読みたい