雑談ネタや仕事術、生き方も学べる! もう一歩踏み込んだ映画の楽しみ方

暮らし

公開日:2021/12/9

『仕事と人生に効く 教養としての映画』(伊藤弘了/PHP研究所)

 映画は単なる“暇つぶし”ではない。意識を変えて見れば、日々の教訓にもなる。そう気づかせてくれるのが、書籍『仕事と人生に効く 教養としての映画』(伊藤弘了/PHP研究所)だ。映画研究者の伊藤弘了氏が、講義形式で独自の映画論を展開する一冊。新旧の名作にまつわる逸話も多数収録された本書を読むと、映画の違った楽しみ方が見えてくる。

わずか“2時間”で人生を疑似体験できるのが映画の魅力

 1885年12月28日。世界初のスクリーン上映が行われた。フランス・パリのカフェで発明家のリュミエール兄弟が、スクリーン投影式の映写装置「シネマトグラフ」で10本の短編映画を有料上映。観客がお金を払って作品を鑑賞する「映画館で映画を見る」という形は、そこから広まっていった。

 以降、現在に至るまで100年以上の歴史を持つ映画。新旧さまざまな作品を通して「映画の登場人物たちに感情移入していき、彼らの人生を擬似的に生きながら感情の変化を味わえる」のは、魅力の一つである。

 長編の場合、おおよそ2時間程度で作品が完結するのも特徴。本書の例でいえば、ドストエフスキーが格差や犯罪をテーマに描いた長編小説『罪と罰』は、原作の単行本を読むには数日かかる。一方、同じ内容を脚本家がまとめ上げた映画版を見れば、2時間程度で貧しい青年の主人公・ラスコーリニコフの人生をたどれる。

 複数の作品を見れば、その数だけの人生にふれられる。ときに困難へ直面する主人公たちからは、生きるための「知恵や勇気、決断力」も学べるのだ。

advertisement

会話のきっかけにもなる“古典”と意外なオマージュ

 無数の作品がある中で、何から見始めればよいか。著者がすすめるのは、古典作品の鑑賞だ。古典は多くの人が知っているため「感想をそのまま会話のネタに使える可能性がある」のも利点で、人との距離を縮めるきっかけにもなりうる。

 著者が紹介する黒澤明監督の作品もその一つだ。映画『七人の侍』や『羅生門』などの時代劇は世界的にも評価が高い。

 また、1958年公開の『隠し砦の三悪人』は、のちの映画界へさまざまな影響を与えた。実際、劇中の「亡国の姫を救出する」という設定は、黒澤監督を敬愛する世界的な映画監督のジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』シリーズでオマージュ。登場キャラクターのC-3POとR2-D2のロボットコンビも、『隠し砦〜』に登場するコミカルな百姓コンビの太平と又七がモチーフといわれている。

 他の作品でも黒澤作品のオマージュは見られる。モノクロの現代劇『天国と地獄』では、一部のシーンだけ画面の一部に色が付く演出が使われている。これを取り入れたのがスティーヴン・スピルバーグで、1993年公開のモノクロ映画『シンドラーのリスト』には、少女の持つ風船だけが赤く着色されたシーンが登場する。

 古典からのオマージュに気づければ、現代映画も違った角度から楽しめる。一歩二歩踏み込んで作品をより深く味わえるようにもなるのだ。

 映画産業の先人たちから「コンテンツの効率的な届け方」や「確実に収益を上げるためのマネタイズ・モデル」も学べる本書。時代を築き上げてきた人びとの技術や方法論は、現代にも通じる。この一冊を片手に、映画をもっと深く楽しんでもらいたい。

文=カネコシュウヘイ

あわせて読みたい