「ZZ」と「逆襲のシャア」を繋ぐ物語。新たなニュータイプの冒険を描くコミック『機動戦士ムーンガンダム』

マンガ

更新日:2022/4/4

機動戦士ムーンガンダム
『機動戦士ムーンガンダム』(福井晴敏:ストーリー、虎哉孝征:漫画、形部 一平:メカニックデザイン、矢立肇・富野由悠季:原案)

『機動戦士ガンダムZZ』と『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の間の期間を描いたコミックが『機動戦士ムーンガンダム』(福井晴敏:ストーリー、虎哉孝征:漫画、形部一平:メカニックデザイン、矢立肇・富野由悠季:原案)。小説『機動戦士ガンダムUC』(KADOKAWA)を書いた福井晴敏氏が原作を担当している。

  本作は今まで描かれることがなかった宇宙世紀の空白期間にスポットを当てている。そのため、ファーストからZ、ZZ、逆襲のシャアとシリーズを見続けてきたファンにとっては待ち望んだ作品と言えるだろう。

 とはいえ、地球連邦軍にもネオ・ジオン軍にも属さない主人公の少年が、ヒロインの少女を追って宇宙へ飛び出していく冒険譚はワクワクする展開で、予備知識がなくてもじゅうぶん楽しめる内容になっている。

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忘れ去られたコロニーから宇宙に出た少年を待つものは

 宇宙世紀0089年、ザビ家の後継者たるミネバ・ラオ・ザビを擁したハマーン・カーンは、地球連邦軍に対し「第一次ネオ・ジオン戦争」を起こしていた。

 ネオ・ジオンはジオン発祥のスペースコロニー群・サイド3を手に入れその本拠地とするまでになる。しかし「ZZガンダム」「Zガンダム」「ガンダムMk-II」などの「ガンダムチーム」が獅子奮迅の活躍をみせて戦局の大勢を決し、地球連邦軍が勝利する。ただミネバは影武者を残して姿を消しており、ネオ・ジオン残党はリュース・クランゲル少佐に先導されて、戦場より離脱していた。

 本作『機動戦士ムーンガンダム』の主人公、ユッタ・カーシムが暮らしていたのは「ZZ」で登場した“忘れられた”スペースコロニー「ムーン・ムーン」。そこには「機械に頼らずに生きる」という教義を守って生活する光族(ひかりぞく)という人々が暮らしていた。

 ユッタは光族の一人で、“教義”で禁忌とされている“機械と外の世界”へ強い興味をもつ15歳の少年だ。宇宙世紀0092年のある日、ガンダムタイプのモビルスーツ(以下MS)の頭部とその装備がムーン・ムーンに衝突しコロニー外壁に損傷を与えた。これがユッタの人生を大きく変える。

 それからまもなくムーン・ムーンに近い宙域で、地球連邦軍の特務部隊ロンド・ベル隊と、ネオ・ジオンのリセ・ジェナロ率いる部隊が戦闘になる。リセたちの目的は、誰あろうミネバを運ぶことだった。

 ユッタはコロニーの外壁修理を依頼するために宇宙に出たところで、その戦いに巻き込まれ、仲間をかばって宇宙へ放り出される。彼は、同じく艦が攻撃を受けたときに宇宙へ流されたミネバをテレパシーのような感覚で感じ取り、見つけ出す。

 いったんロンド・ベル隊が撤退し、リセが艦長をつとめる艦艇「アタラント3」はムーン・ムーンへの寄港とドックの設備を使うことを許された。その時に破損したニュータイプ用MS「バルギル」の応急修理として、漂着していたガンダムタイプの頭部が取り付けられ、新しいMSが誕生する。

 数日後、密かにアタラント3を追ってきたロンド・ベル隊と、リュース直轄のネオ・ジオン部隊がムーン・ムーン内でMS戦を始める。リュースの部隊はミネバの存在を秘匿とするため、コロニーの住人はもちろん、味方であるアタラント3のクルー、そしてミネバの命すら攻撃対象としていた。

 そこでユッタは「バルギル」だったMSに乗り込むと、独力でいきなり動かしてみせた。その際に再びミネバと感覚が繋がり、彼女の指示を受けながら戦い、リュース隊を退ける。

 彼は初めて操縦したMSでコロニーと仲間たちを守った。ファンなら誰しも、その行動から、アムロ・レイの姿を思い描くことだろう。

 ユッタはこの戦闘で祖父を亡くし、しかもミネバがロンド・ベル隊に連れ去られたことを知り、宇宙へ飛び出していく——。

アムロ、シャア、ミネバが続々登場! そして最終決戦につながる物語の行方

 ユッタはすぐにアムロと出会う。「第一次ネオ・ジオン戦争」には直接参加しなかったアムロはロンド・ベル隊に所属し、ティターンズ残党やネオ・ジオン軍などの、反地球連邦組織の掃討任務についていた。

 一方シャア・アズナブルは、宇宙世紀0088年の「グリプス戦役」直後から行方不明となっているが、密かに“逆襲”の準備を進めていた。

 そしてミネバ。本作では、10代にしてジオンの後継者として堂々とふるまい、カリスマ的な将才すら見せつける。しかしムーン・ムーンの女王、サラサ・ムーンには「自分の言葉で話していない」と看破される。

 彼女は好奇心旺盛なユッタと話すうち、ニュータイプ同士の感覚で、言葉を交わさなくても精神が繋がるようになる。

 だがミネバはロンド・ベル隊に連行されたのち、再会を果たしたユッタに、ジオンが起こした戦争と“行ったこと”について激しく問い詰められる。「わかりあえた」はずのふたりはこの後どうなっていくのだろうか——。

 最新の8巻では、このミネバを巡り、ロンド・ベル隊とネオ・ジオン軍との戦いはますます激しさを増していく。

 また、本作のメインキャラクターの2人の女性、ネオ・ジオンのリセとロンド・ベル隊のサフィラ・ガードナーにも注目してほしい。戦争に翻弄されてきた彼女たちは、何かを抱え、思いを秘め、強い意志で行動していた。物語はユッタと、まだ幼さの残るミネバ、そしてリセとサフィラを中心に描かれている。

 それでも「ムーンガンダム」は、「ZZ」までに登場したキャラクターや派生MSを描き、本作初登場キャラクターたちを通して、「逆襲のシャア」という未来を知っている私たちにも、新鮮な面白さを与えてくれる。

文=古林恭

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