子どもにはまだ早い! は間違いだった。絵本『ほしのおうじさま』が教えてくれたこと

文芸・カルチャー

更新日:2021/12/14

ほしのおうじさま
『ほしのおうじさま』(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ:原作、ルイーズ・グレッグ:著、サラ・マッシーニ:絵、福本友美子:訳/主婦の友社)

 1943年に出版されてから78年、多くの人に愛読されてきた名作『星の王子さま』。2021年12月、本作をモチーフにイギリスの詩人と画家のコンビにより新しい絵本『ほしのおうじさま』(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ:原作、ルイーズ・グレッグ:著、サラ・マッシーニ:絵、福本友美子:訳/主婦の友社)が誕生しました。ファンタジックなイラストとともに展開される星の王子さまの不思議な世界に、子どもはどんな反応を示すのでしょうか。さっそく子どもに読み聞かせてみると……。

ほしのおうじさま

日が のぼるころ、ふしぎな ちいさい こえが きこえて、目が さめました。
「おねがい……ヒツジの えを かいて」
わたしは 目を ぱちくりしました。
かわいらしい おうじさまが いたのです。

 さばくに不時着した飛行士の前に、かわいらしい王子さまがあらわれるところから物語は始まります。王子さまにヒツジの絵を描いてと頼まれて困った飛行士が描いたのは、ひとつの箱。でも、どうやら王子さまにはこの箱の中にヒツジが見えるようです。

わたしは ヒツジなんて かいたことが ありません。
だから こんな えを かいて、ヒツジは このなかに いるよ、といいました。
「そうそう、こんなヒツジが ほしかったの」
おうじさまは かおを かがやかせました。
「ほら、よくねむっている」

 読み聞かせをしながら、「この箱の中に何か見える?」と子どもに質問してみると、「チョコレート!」という驚きの答えがかえってきました。

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ほしのおうじさま

 王子さまは、自分が住んでいた星のことや仲良しだったバラのことを話します。バラに水をあげたり、ついたてをたててあげたり、ガラスのおおいを用意してあげたり……。お世話につかれた王子さまは、その星を離れることにしたのです。

 このシーンで子どもが突然「もうワガママしない~」と言い出しました。普段ワガママを言っている自分に気がついたのかもしれません(笑)。バラが自分のように思えたのですね。

 このあと、王子さまはさまざまな星をめぐり、キツネの友達と出会い、大切なことに気がつきます。何に気がついたのかは絵本を読んでからのお楽しみですが、今回の読み聞かせを通して、哲学的な要素がある絵本だから子どもには分からないだろうという思い込みがくつがえされました。箱の中に大好きなチョコレートが見え、バラを自分ごととしてとらえる、子どもの想像力と心の豊かさに感心しました。表面的に見えているものだけではなく、見えていない本質的な部分を想像する力は、子どものほうが長けているのかもしれませんね。

 あなたは四角い箱の中に何が見えますか?

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