隠密捜査あり、アートあり、法廷劇あり…一冊で何度も楽しめる全英No.1の圧巻警察小説!

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/17

まだ見ぬ敵はそこにいる ロンドン警視庁麻薬取締独立捜査班
『まだ見ぬ敵はそこにいる ロンドン警視庁麻薬取締独立捜査班』(戸田裕之:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 ロンドンを舞台に繰り広げられる緊迫の隠密捜査。目をみはるようなアクションと、突然巻き起こる殺人事件。まさかの裏切りと計略。そして、攻防続く裁判論戦…。あらゆるミステリーの醍醐味をぎっしり詰め込んだような贅沢な警察小説が、今、全世界の人々を虜にしている。

 その小説とは、総発行部数2億7500万部を突破したイギリスの大ベストセラー作家・ジェフリー・アーチャーによる『まだ見ぬ敵はそこにいる ロンドン警視庁麻薬取締独立捜査班』(戸田裕之:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)。スコットランドヤードの若き刑事の活躍を描いたこの作品は、丹念なキャラクター描写や状況描写、疾走感あふれるストーリーに、あっという間に惹き込まれてしまう極上のエンターテインメントだ。

 主人公は、一流弁護士の父親の反対を押し切ってロンドン警視庁の警察官になったウィリアム・ウォーウィック。新人ながらスコットランドヤードに抜擢された彼は、本作の冒頭で警視長直属の麻薬取締独立捜査班に異動となる。この捜査班の使命は、ロンドンを丸ごと麻薬漬けにしようとする悪名高き麻薬王・通称「蝮(ヴァイパー)」を逮捕し、組織を一網打尽にすること。ウォーウィックは、麻薬王の正体と本拠地を突き止めるべく捜査を進めていくことになるのだが、彼が立ち向かわなくてはならないのは、麻薬王だけではない。因縁の敵で、現在は執行猶予中の美術骨董詐欺師・マイルズ・フォークナーも怪しい動きをみせはじめる。

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 この物語はとにかくエンターテインメント要素が満載だ。潜入捜査や追跡捜査、ズル賢い美術骨董詐欺師の自宅の家宅捜索などにももちろんハラハラさせられるが、それだけではない。ロンドンの描写を読めば、まるでその街並みに迷い込んだような気持ちにさせられてしまうし、美術品が随所に出てくるのもアート好きにはたまらない。たとえば、ある取引ではテートギャラリーを舞台に、ムーアの『横たわる像』やミレーの『オフィーリア』が登場したり、またある時にはフェルメールの『レースを編む女』が物語の重要な鍵になったり。それらがミステリー要素と掛け合わされることで、さらに読み手の気分を高揚させていく。

 また、「警察小説」というと、暗い空気が漂うと思いがちだが、この作品からは明るささえ感じられる。それは、ウォーウィックと彼を取り巻く人々がコミカルに描写されていくためだろう。恋人ベスとの結婚式やハネムーンの場面もあれば、ウォーウィックが父親に仕事に関するある相談をする場面は思わず笑わせられる。ウィットに富んだ会話はどれもクセになるものばかりだし、そういったプライベートの場面も、本筋の捜査にしっかりつながっていくから面白い。さらには、マイルズ・フォークナーを相手取った法廷劇では、ウォーウィックの父親と姉が大活躍。その緊張感、臨場感は凄まじく、まるで、映画を観ているかのような壮大さだ。

 一体、この本は一冊で何度読み手を楽しませてくれるのだろうか。クライマックスで重大な疑惑が生まれたかと思えば、ラストは、まさかの衝撃の展開…。続きが気になって仕方がない。ジェットコースターのような目まぐるしい展開に、のめりこんでしまうこと間違いなし。ミステリー好きなら絶対読むべき。全世界の人を魅了しているというのも納得の傑作だ。

文=アサトーミナミ

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