陰キャ青年と謎の美女が期間限定の恋人に?『ぼっちの僕に強制彼女がやってきた』は強制と嘘から始まる“偽装恋人”ラブコメ!

マンガ

公開日:2021/12/16

ぼっちの僕に強制彼女がやってきた
『ぼっちの僕に強制彼女がやってきた』(栗ののか/芳文社)

「付き合ってみない? 私たち!」自宅の食卓で見知らぬ美女に突然こう言われたら、皆さんはどう対応するだろうか?

 初対面(?)で告られて始まるラブコメが『ぼっちの僕に強制彼女がやってきた』(栗ののか/芳文社)である。

 円堂周平(えんどう しゅうへい)は、冒頭の意味不明過ぎるシチュエーションに混乱する。そんな彼をよそに、彼女――泉亜沙乃(いずみ あさの)はグイグイ来る。はたしてその真意とは?

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“ぼっち”な24歳、強制から始まる恋人関係をスタートさせる

 24歳の誕生日、周平は例年通り自宅で母親と虚しくケーキを食べて終わる……はずだった。

ぼっちの僕に強制彼女がやってきた

 だが今年は見知らぬ女性が家に来ていたのだ……。しかもひと目で美人と分かるスタイル抜群の女性が。戸惑う周平をよそに、母親は彼女をこう紹介する「泉さんは会社の同僚で、あなたとお付き合いしたいんですって」。

 あぜんとする周平に、亜沙乃は鍵をみせながら「初対面ではない」と告げる。周平は数日前のことを思い出した。勤務先のコンビニで、その鍵を忘れた女性のお客さんを追いかけて届けると「お礼させてください、ご飯食べに行きましょう」と言われ、断っていたのだ。

 亜沙乃は親切にされたコンビニ店員の胸の名札にピンと来ていた。珍しい名字だが見覚えがある。それは同じ会社の社員=周平の母親と同じ名字で、何気なく確認したところその人の息子だったのだ。すごい偶然だ、こんな出会いはなかなかない、だから付き合おう、と言う。話についていけていないのは周平だけのようで、母親は「初めての彼女ね」と横で喜んでいるのだった……。

ぼっちの僕に強制彼女がやってきた

 しかし周平は「何が狙いだ……!?」と疑い、こんなゲームやマンガのような「ぼっちがモテるご都合展開」を素直に受け入れない。だてに彼女も友達もいない“ぼっち”な人生を送ってきたわけではないのだ。本稿の筆者だったら……「まずはお友達からお願いします!」などと勢いで言ってしまうかもしれない。しかし、周平は簡単にはなびかない。信頼できる、というか筋金入りの陰キャ青年なのだ。

 亜沙乃と二人になったところで、周平はキッパリ断り、「不自然だ」「自分より悲惨な人間を見て安心したいのだろう」と半ば自虐しながら問い詰めると彼女は白旗をあげる。彼女が語ったところには、じつは彼の母親に「うちの周平は引きこもりなの 息子をなんとかしてほしい」と悲壮感たっぷりに涙目で頼まれ、放っておけなくなってしまったというのだ。

 なんということだろう、24歳の誕生日、母親からのプレゼントは恋人だった――。

ぼっちの僕に強制彼女がやってきた

 ネタバレを聞いた周平は、ある理由から亜沙乃の申し出を受ける。もちろん母親には「付き合うことになったよ」と報告して。こうして“強制”からの偽装恋人関係がスタートした。なぜなのか。

“人にやさしく”なれる二人の偽装恋人関係のゆくえは

 本作の魅力は二つある。まず単純にラブコメとして二人の関係を楽しめること。ギクシャクとした周平と亜沙乃の偽装恋人関係は読んでいてもどかしく、まさに「こういうのがいいんだよ」という感じだ。

 そしてもう一つは登場人物をていねいに描いており、それが物語に“深み”を与えていることだ。周平はいわゆる陰キャで自己評価が低く、心が硬い殻でおおわれていた。そうなった原因は彼の母親のせいなのだ。最初はコメディタッチで描かれる母親の強引さは、すでにその異常さを軽く“匂わせ”てはいるものの、今後物語が進むにつれ、想像以上にシリアスに描かれていく。

 この母親がいるからこそ彼は、人の気持ちに敏感で、人に気をつかえる「やさしい子」に育ったのだが……。そうして、亜沙乃が自分の母親の願いを断れば、会社で気まずくなるだろうと推測した周平は、彼女に「付き合うフリからの、期間限定で自然消滅する作戦」を提案するのだ。

 また亜沙乃がトラブルに巻き込まれるたびに、絶妙な助け舟を出す。ひねくれてはいるものの、やはり根は「いい子」なのである。

ぼっちの僕に強制彼女がやってきた

 なお亜沙乃の心中や過去については、1巻ではまだあまり描かれていないものの、確かなのは彼女が思っていた以上に「いい人」であること。

 そのやさしさには、さすがの周平も感情を動かされる。彼の母親から強引に頼まれたとはいえ随所で「女の子に慣れるお手伝いをしようと思った」「誰かと映画を観るとか食事をするのは楽しい、それを共有したい」などとと本気で言ってくるのだ。

 そして前述の通り、周平に何度か助けられていくうちに彼女の心も……?

“ぼっち”な青年が謎の美女に会って数分で告白され、第1話ですぐにそれが嘘だと明らかにされたうえで始まる「恋人ごっこ」は、このあとどんな展開をみせるのか? 恋人偽装をするため“強制”的に距離を近づけていった先に待っているものとは?

 嘘からまことは出てくるのか?

 また一つ、続きが気になるラブコメを知ってしまった……!

文=古林恭

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