「迷い猫、探します」―― “古道具”を通して困った事情を抱えた人の思いを解き明かす『古道具おもかげ屋』

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/24

古道具おもかげ屋
『古道具おもかげ屋』(田牧大和/ポプラ社)

 八丁堀の長屋で「猫探し」を生業にしている少女・さよ。まだ15歳にもなっていないのに、自分ひとりの力で生きていくのだと決めたさよは、自分と同じように理不尽に傷つけられる猫たちのために心を尽くそうと決めている。小説『古道具おもかげ屋』(田牧大和/ポプラ社)の主人公は、そんな彼女が主人公――ではなくて、猫探し屋の店舗として間借りしている古道具屋おもかげ屋の店主・柚之助だ。

 18歳、女性と見まごうばかりの美青年の彼、通称“ゆずさん”は、人間嫌いのさよと違って、人間にまったく興味がない。あるのは、古道具に対してだけ。古道具をまるで人間かのように扱い、話しかけ、人間を相手にするときは、観察して古道具にたとえるクセがついている。愛着なく横柄に古道具を買おうとする客は追い払ってしまう彼のため、なにか困った事情を抱えて古道具を探す客を見つけては引っ張ってくるのがさよの役目だ。なぜ事情が必要かというと、もちろん客に同情するからなどではなく、“古道具のために”ひと肌脱ごうと柚之助がやる気を出すからである。

 物語冒頭でさよが連れてきたのは、贅沢な身なりをしたお坊ちゃん・信次郎だ。勘当されている両親とのあいだを繋ぐべく、祖父のもとに足しげく通う信次郎は、あるとき、祖父が親友を亡くして以来、大好きだった将棋を指さなくなってしまったこと、同時に大好物の「蜆の醤油煮」を食べなくなってしまったことを知る。どうにかして祖父に元気になってもらおうと、売り払ってしまったという将棋の駒のかわりを、おもかげ屋に探しにきたのだが、柚之助の興味は、なぜか百文で売れてしまったというその将棋の駒に向く。事情を知らなくては、おもかげ屋にある駒も売ることはできないと、あくまで古道具のために、信次郎の願いを叶えることになるのだが……。

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〈人間だけなんですよ。『本心』を建前や意地で隠すのは〉と柚之助は言う。けれど〈古道具からは、大切にされたのか邪険にされたのかが、ちゃんと伝わってくる〉。だからこそ、古道具を中心に据え置いて、心の機微をひもといてやれば、こんがらがった人間関係もときに解決されていくのだと。優しさとはまた違う誠実さで、柚之助が謎を解き明かしていく過程は、読んでいてとても心地よい。

 けれど本心を隠しているのは、柚之助も同じなのである。人間に関心がないのではなく、関わった人すべてを案じたり傷ついたりしてしまう性格だからこそ、心を閉じて、本当に大切な人――育ての親でもある祖母・菊ばあとさよにだけ、想いを注ぐようにしている彼の過去に何があったのか。そしてそのさよは、どうして猫探し屋なんて生業で幼いながらに生計を立てるようになったのか。合間に語られていく彼ら(と猫)の事情はあまりに無慈悲で、だからこそ、手をとりあおうと決めたその関係のあたたかさが胸を突く。

 ちなみに柚之助は料理上手で、彼の助言で売り出した厚揚げの梅干し煮は大好評らしい。ほんのちょっとの描写なのに、読み手の胃袋も激しく刺激される。柚之助が菊ばあのために探している簪もいまだ見つからないし、さらなる柚之助のオリジナル料理も知りたいので、ぜひとも続刊を希望する。

文=立花もも

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