子育ての理想論に追い詰められているあなたへ。時間的にも精神的にも余裕がない人に向けて「こんなにラクしても子育てはできる」を伝える1冊

出産・子育て

公開日:2021/12/28

「私、子育て向いてないかも」がラクになる本
『「私、子育て向いてないかも」がラクになる本』(Joe/日本実業出版社)

「1日1時間は子どもと遊んであげよう」「子どもと向き合う時間を取ろう」などと言われたら、どう感じますか? 「よしやってみよう」と思える人はそのまま実行すると良いと思います。でも中には、「子どもと1時間遊ぶ時間も心の余裕もない」「子どもと向き合える自信がない」、もしくは「子どもをかわいいと思えない」という人もいるのではないでしょうか。

 子どもと密に関わることでより良い子育てをすすめる本は世の中に溢れていますが、実際はそのような時間と心の余裕のある親ばかりではありません。時節柄、コロナ禍の打撃を受けて生活に余裕がなくなっている人や、家族と会えずにワンオペ育児が続いている人もたくさんいます。

 そういった人たちに向けて刊行されたのが『「私、子育て向いてないかも」がラクになる本』(Joe/日本実業出版社)です。本書では、この本を下記のような人たちにすすめています。

・子育てに追い詰められている人
・シングルマザーやワンオペ育児をしている人
・理想の育児を追いすぎて、ことごとく裏目に出ている人
・自分が機能不全家庭で育ったために、子育てのやり方がまったくわからない人
・ほかのどの子育て本でもうまくいかなかった人 など

 この本はおそらく、「なんとかして良い学校に行かせたい」「将来エリートに育てたい」という人には向いていません。そうではなく、「どうすれば子どもがまともに育つのかわからない」「普通の子育てがわからない」「子育てをどのくらい頑張ればいいのかわからない」といった人たちに向いています。

advertisement

将来の生きやすさにつながる「耕し子育て」

 そんな人たちに向けて著者がすすめているのが、「耕し子育て」です。これは、子どもの行動や発言を受け止め、「そうだね」などの肯定的な反応をしたり、共感してみせたりすること。もともと子どもが持っている素質を伸ばしていくイメージです。心をどんどん耕していくと、子どもの心は柔らかくなり、それがそのまま将来の「生きやすさ」につながるのだとか。

 反対に「植え付け子育て」とは、「こうするべき」「これはしてはいけない」などと、親が知っている知識や制限を子どもに教え込むこと。もちろん必要な場面もありますが、そればかりを続けると、気持ちを無視されつづけた子どもは「家畜化」され、自分で考える力が身につかず、生きづらさを感じるようになります。親は親で、理想を追いすぎるゆえに「どうして言う通りにできないの」と子どもに絶望し、親子の関係が険悪になりやすいそうです。

「3秒コミュニケーション」で楽しい家庭の雰囲気をつくる

「3秒コミュニケーション」は、子どもと向き合う時間がない、もしくは子どもと向き合う自信がない親でも、手軽に実践できるコミュニケーションの方法です。

 たとえば、子どもと目が合ったら「微笑む」「手を振る」「変顔をする」などの反応をします。子どもが話しかけてきたら、「やばっ!」「すごっ!」「やった!」など、なるべくふざけた言葉で驚きながら答えるのが理想。こちらから話しかける場合は、「給食おいしかったの?」などと尋ねて、返事があったら親指を立てて「いいね」のポーズを取るなど、いずれも「一往復」の会話でOK。スキンシップでは、「通りすがりに頭をナデナデする」「時々ふざけて鼻をつまんでみる」など。

 どれも3秒で終わりますよね。一生懸命やると面倒になるので、一瞬で、なにげなく行って、自分の癖にしていくイメージがいいそうです。

 狙いは、ただ「楽しい家庭の雰囲気をつくる」こと。何の教育的意図も期待も持たず、深く向き合う必要もなし。子どもと家にいる時間を満遍なくノリのいい時間にしていくことが目的です。

「家事をしながらでいい」のもポイント。せわしなく家事をしながらなので、すぐに切り上げても子どもはがっかりしません。それでいて、日常的に心を開いている印象を与えられるし、簡単なことで子どもが明るくなるから親も疲れずに、いいことをしている気持ちになって、元気が出ます。

 ほかにも、ちょっとした会話がおもしろくなる例や、同じパターンでも飽きられないコツ、もっと会話を長くする中級編&上級編などが紹介されていますので、ぜひ本で続きをチェックしてみてください。

「母親として頑張らなくては!」と自分を追いつめていることに気づかされる

「自分と同じような不憫な思いは絶対にさせない」と強く思う母親ほど、子どもに深い愛情を与えようと頑張り過ぎてしまい、それがストレスとなって子どもに八つ当たりしてしまう、というケースは少なくないそう。

 たとえば、忙しいし疲れているけれど、多くの子育て法で良いと言われている「読み聞かせ」をしてあげようとしたとき。せっかく選んであげた本なのに「気に入らない」と言われたり、いざ読みだすとまったく聞かずに走り回ったりという態度を子どもにとられた経験を持つ親は多いでしょう。

 そういう子どもの態度を我慢して「読み聞かせ」を続けられれば良いですが、耐え切れずに「せっかく読んでやったのに!」と叫んだり、不機嫌な態度を翌朝まで引きずったりすると、母親はどんどん子どもの心を耕す気持ちを失うし、子どもは母親の気分に左右される慢性的な緊張感の中で育たなければならなくなるのだとか。

「でも世間では、このような子どもに深く向き合う姿勢が好ましいという点だけに注目しがちなことから、多くの忙しい母親たちが、死に物狂いでこの『子育ての罠』にかかり、それによって、さらに忙しくなって腹を立て、親子ともども、不幸なサイクルに陥っていく」と、著者のJoeさんは指摘します。

親の役目は「子どもの心を耕す」だけでいいのかも

「耕し子育て」で行われるようなコミュニケーションは、子どもが特別に心を開いている相手にしかできないことだそうです。つまり、親の役目です。この記事を読んでいる人はみんな、子どもをなんとかしてまともに育てたいと考えているのではないでしょうか。

 たしかに「危険な行為を防ぐ」「日常生活をしつける」などの「植え付け子育て」も必要ですが、それは学校や幼稚園、保育園でも教えてくれること。甘えっぱなしも良くないとは思いますが、ひとりではなかなかできないのが子育てですよね。日常生活や勉強などのあれこれを覚える前の土台として、まず子どもに必要なのは「心の安定」なのだと本書が教えてくれました。

 だから、頑張るのもいいけれど、まずは「子どもの心を耕す」だけでも親の役目は果たせるのかもしれない、と感じます。しかも、今までの苦労が吹き飛んでしまうようなラクな方法で。「今からでも遅くはない」「これだけやっていれば大丈夫!」とやさしく背中を押す著者から勇気をもらいつつ、一度試してみてはいかがでしょうか。

文=吉田あき

あわせて読みたい