『鬼滅の刃』の「全集中の呼吸」の方法を呼吸研究の第一人者が推測! こころとからだにいい呼吸法とは?

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公開日:2021/12/26

呼吸の科学 いのちを支える驚きのメカニズム
『呼吸の科学 いのちを支える驚きのメカニズム(ブルーバックス)』(石田浩司/講談社)

『鬼滅の刃』で一躍子どもたち人気の技になった「呼吸の型」。考えてみると、ヨガ、格闘技、武道、スポーツなどでも「呼吸」が重視されている。素人には、ただ息を吸って吐くだけの行為に見えるが、呼吸を駆使すれば、超人的な力を本当に発揮できるようになるのだろうか。

『呼吸の科学 いのちを支える驚きのメカニズム(ブルーバックス)』(講談社)の著者・石田浩司氏は、運動と呼吸についての研究を30年ほど続けてきた中で、今、新型コロナ禍で呼吸の重要性が見直されていると感じ、“呼吸を科学する”本書を上梓した。

 本書によると、呼吸は内臓器官の中で、唯一、意識的に変えることができるものであり、『鬼滅の刃』のように超人的とまでは至らずとも、誰でもある程度は身体能力を向上させたり、精神をコントロールしたりできるそう。

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 例えば、1分間に1回の呼吸が可能な鍛錬者が存在するヨガの「鼻呼吸(腹式呼吸)+ゆっくりとした呼吸」の呼吸法を行うと、科学的には副交感神経が優位となって血圧や心拍数が低下するとともに、血管が弛緩して広がるため血液が流れやすくなり、末梢の血行が良くなるそうだ。また、呼吸に集中することで脳の前頭前野が活発化し、雑念を払い精神統一に良い、という。ただし、多く呼吸をしても必要な分以外は肺に戻ってくるだけであるため「深い呼吸で酸素を体に行きわたらせる」という謳い文句には疑問符がつくし、呼吸法のみにおけるダイエット効果、気やエネルギーの注入なども科学的には証明できない、と述べている。

 さて、格闘技、武道、スポーツなどにおける呼吸だが、本書によると勝敗を左右するほどのものであり、呼吸法の訓練も課されるなど重要視されているそうだ。呼吸には「相(呼気=息を吐き出す、吸気=息を吸い込む、止息=息を止める)」があり、それぞれで神経・筋機能の働きが変わる…つまり、反応が速くなったり遅くなったりするらしい。具体的には、「ランプが光るのを見てジャンプする」という全身反射を例にとってみると、

【基準】吸気後に息を止めた状態
・呼気中=3パーセント有意に遅くなる
・吸気中=5~8パーセント有意に遅くなる

ことが知られている、という。また、吸気から止息した場合、呼気中や吸気中に比べて、5~8パーセント大きな筋力を発揮できたり、20~30パーセントも素早く一気に力を出したりできる報告もあるらしい。スポーツ選手が大きな掛け声をかけることには、科学的に意味があるのだ。ただ、剣道などの武道では、力をピークにできる止息前の吸気に隙ができやすく、相手から狙われやすいことから、吸気時間を短く、呼気時間を長く、肩で息をせず呼吸が見破られにくい腹式呼吸を意識するらしい。つまり、ヨガの呼吸法と同じで、リラクゼーション効果、注意や意識の持続効果も伴う。

 著者は、この「リラックスしつつ集中」できる「鼻呼吸(腹式呼吸)+ゆっくりとした呼吸」こそが、『鬼滅の刃』の「全集中の呼吸」かもしれないと推測している。

 本書では、この「こころとからだにいい呼吸法」の仕方を、科学的な見地から紹介している。本稿では、ごく簡単に要点のみ掲載したい。

(1)背筋を伸ばし、姿勢を正しくする

(2)全身をリラックスさせる

(3)お祈りの時のように両指を組み合わせた両手をお腹の上に置き、目は閉じるか、時計の秒針を集中して見る

(4)鼻からゆっくり大きく息を吸う。いっぱい吸ったなと思うところ(感覚として最大の8割程度)まで吸う

(5)1秒から数秒息を止めるか、止めずにすぐに呼気に移る

(6)吸気の倍以上の時間をかけて、ゆっくり口から空気を、吐き切る少し手前まで吐き出す

 著者は、科学的には10秒に1回の呼吸がよさそうであるため、吸気3秒、止息1秒、呼気6秒を目安として掲げている。勉強や仕事の合間のリフレッシュ、プレゼン前の緊張する時間などに実施することを、本書は勧めている。

 呼吸は訓練次第で習慣として習得できる。本書で呼吸を知り、生活の質を無理なく向上させることができそうだ。

文=ルートつつみ (@root223

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