それぞれの宿命と対峙する3人の若者たち。彼らが選ぶ未来は? コミック『機動戦士ガンダムUC バンデシネ』

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更新日:2021/12/28

機動戦士ガンダムUC バンデシネ
『機動戦士ガンダムUC バンデシネ』(福井晴敏:ストーリー、大森倖三:コミカライズ、安彦良和:オリジナルキャラクターデザイン、カトキハジメ:メカニックデザイン、矢立肇・富野由悠季:原案/KADOKAWA)

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」から3年後、宇宙世紀0096年から始まる『機動戦士ガンダムUC』(以下「ユニコーン」)の物語は、原作小説とアニメ、そしてコミックが存在する。

 それが『機動戦士ガンダムUC バンデシネ』(福井晴敏:ストーリー、大森倖三:コミカライズ、安彦良和:オリジナルキャラクターデザイン、カトキハジメ:メカニックデザイン、矢立肇・富野由悠季:原案/KADOKAWA)だ。

 本書だけのモビルスーツ(以下MS)や装備のほかにオリジナルエピソードも加えたうえで、原作とアニメの内容も織り交ぜた形で構成している。

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宇宙世紀の歴史を覆す「ラプラスの箱」をめぐる戦い

 物語は宇宙世紀0001年の、西暦からの改暦を祝うセレモニー会場から始まる。宇宙ステーション「ラプラス」が、テロ組織により爆破された。地球連邦政府初代首相、リカルド・マーセナスは死亡。さらにテロリストの艦艇は口封じのために事件の黒幕の手で破壊される。

 テロに加わった青年・サイアムは運よく生き残り、残骸の中であるものを手に入れる。宇宙世紀でこれから幾度となく起きる争いのもととなり、後に「ラプラスの箱」と呼ばれるものを――。

 時は流れ、地球連邦政府とジオン公国との「一年戦争」、地球連邦政府の内乱「グリプス戦役」、ハマーン・カーンによる「第一次ネオ・ジオン戦争」、そしてシャア・アズナブルによる逆襲「第二次ネオ・ジオン戦争」を経た、宇宙世紀0096年。ネオ・ジオン残党の「袖付き」と地球連邦軍の戦いが本格化する。

 建設中の工業用スペースコロニー「インダストリアル7」では、地球連邦軍の極秘計画「UC計画」が進められており、計画の核となるMS「ユニコーンガンダム」の最終稼働実験が行われていた。

「インダストリアル7」には父を知らずに育った16歳の少年、バナージ・リンクスがいた。彼はある日、コロニーの空を舞うように落ちてきた、オードリー・バーンと名乗る謎の少女を助ける。オードリーは「戦争を止めたい」と訴える。彼女の正体は16歳のミネバ・ラオ・ザビ。ザビ家の忘れ形見だった。

 彼女が向かっていたのはコロニー内にあるビスト財団の当主カーディアス・ビストの邸宅だった。2人が到着してまもなく戦闘が起こる。

 カーディアスは重要機密である「ラプラスの箱」を「袖付き」へ引き渡そうとしていた。「箱」には地球連邦政府を転覆させる秘密が隠されており、取引を察知した地球連邦軍が「インダストリアル7」に突入、カーディアスと「袖付き」に攻撃を仕掛けてきた。オードリーを助けようとしたバナージは、運命的に自分の出自を知ることになる。彼はカーディアス・ビストの私生児だったのだ。カーディアスは自分の息子にMS「ユニコーンガンダム」を託す。実は「ユニコーンガンダム」こそ「ラプラスの箱」を探し出す“鍵”であった。

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

 少年と少女はそれぞれ一族の業を背負い「ラプラスの箱」をめぐる争いに身を投じる。さらにそこには、「箱」の秘密を知るマーセナス家出身で地球連邦軍の少尉、リディ・マーセナスもかかわってくる。

 戦いの末にバナージとオードリー、リディがたどり着く結末は――。

小説やアニメとは異なるコミカライズ版の楽しみ方

 冒頭に書いたように「ユニコーン」は本作「バンデシネ」の前に、原作小説とアニメが存在する。それぞれのストーリーの大筋は同じだが、登場するMSやエピソードが異なっている。本書「バンデシネ」ならではの特徴を見てみよう。

 まずメカ好きは見逃せないMSについて。物語序盤、「ユニコーンガンダム」の稼働実験で仮想敵機として登場するMS「シルヴァ・バレト」は、アニメ版では終盤に「ネオ・ジオング」と戦闘するという、登場場面が異なっている。ちなみに「機動戦士ガンダムZZ」に登場したMS「ドーベン・ウルフ」の改修機でガンダムタイプの頭部を持つMSであり、複雑な開発系譜を持つ機体である。

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

 そして10巻と11巻に登場する「バイアラン・カスタム2号機」。その名の通り、「機動戦士Zガンダム」に登場したMS「バイアラン」の改良型である。旧型のMSが多数登場した「袖付き」によるトリントン基地襲撃の際にリディが搭乗する本機はアニメ版には登場しない。飛行形態に変形し、大気圏内での高い機動性を持つ。

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

 MSの他に武装も一部異なっている。「ユニコーンガンダム」が装備する「アームド・アーマーDE」は、MSデザインを手がけたカトキハジメ氏がこの「バンデシネ」のためにデザインしたものである。

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

 そして「バンデシネ」のエピソードはアニメで描かれなかった原作小説の詳細な描写や展開を生かしている。特にモビルアーマー「シャンブロ」の進撃は、原作小説と同じ地球連邦政府の首都ダカールでの事件としているほか、「シャンブロ」のパイロットであるロニ・ガーベイの運命も詳細に語っている。

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

機動戦士ガンダムUC バンデシネ

 本書はそんなロニたちがダカールを襲撃するに至る背景を深掘りし、その後日談を13巻から14巻の単行本2冊分にわたって描いている。このエピソードはアムロの盟友、カイ・シデンの視点で描いた「バンデシネ」のオリジナル。非常に重たく、考えさせられる内容だ。

 原作小説とアニメの要素を織り交ぜながら、コミックオリジナルのポイントをプラスした「バンデシネ」は、媒体にかかわらず『機動戦士ガンダムUC』という作品に触れたことがある方には特に楽しめる作品であることを約束しよう。

文=古林恭

(C)創通・サンライズ

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