剣道とダンスに意外な共通点!? はじけるようなダンス表現にワクワクが止まらない、努力と成長の物語『リズムナシオン』

マンガ

公開日:2021/12/29

リズムナシオン
『リズムナシオン』(マツモトトモ/白泉社)

 スポーツや音楽などを題材にしたマンガは、盛り上がりを描く際に、アクロバティックな表現が用いられることが多い。例えば、音楽を演奏する中で周囲に花が咲いたり、テニスでボールを打つときに通常ではありえないほどジャンプしたり。そういう意味で、ダンスのマンガは表現が他よりも難しいのではないかと思う。なにしろ、ダンス自体がすでにアクロバティックな要素を持つからだ。その点、『リズムナシオン』(マツモトトモ/白泉社)の描き方は素晴らしい。あからさまな誇張表現はないのに、1ページ1ページしっかりと“踊っている”のである。月並みだが、まさに今にもコマから飛び出してきそうな本気のダンスがそこに描かれている。ダンスシーンをあらゆる方向から描くカメラアングル、踊る人の目線、ダンスを見る人のワクワクした表情。それらを目で追いながら読むうちに、生き生きとした立体的なダンスに惹き込まれる。

 ダンスに惹き込まれる読者と同じように、主人公の風太もまた、ダンスに吸い寄せられるところから物語は始まる。謎のビルの一室で、J(ジョーカー)、K(キング)、Q(クイーン)と呼び合う謎の人々。ひょんなことからそこに迷い込んだ風太は、彼らのダンスに魅せられ、練習に通い詰めるようになる。風太は人間国宝の剣道家を祖父に持ち、これまで剣道一筋でやってきたサラブレッド。剣道で身に沁みついた風太の体の使い方と筋力が、意外にもダンスにおいて特殊性を見出されることになる。

 人物それぞれの掘り下げについては、2巻以降にさらに深まっていくことと思うが、それぞれが抱えるものがどう作用していくのかも楽しみだ。Kは「自分には向いてない」と諦めていたダンスの動きについて、あるきっかけから改めることになる。仕事もダンスも正確無比なQは、それゆえにぶつかるダンスの表現や人付き合いの壁を乗り越えようとする。

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 そして風太は、人生で初めて“自分から選んだ”ダンスと、それまで何も考えずに“やらされてきた”剣道と、それぞれどう向き合っていくのか。これまで剣道しかやらせてもらえなかった風太の周囲のことをJが「選択肢はなるべく奪って 雁字搦めにして 『あなたの為なんだから』 気持ちいいよね そう言って他人を支配するのは」と指摘するシーンはゾクゾクする。

 そして、そもそもJは何者なのか。KとQはなぜ一緒にダンスをすることになったのか。現時点では意味深なセリフが時折出てくるだけで、ほとんど何もわからない。リズミカルなダンス、目の前の壁にもがくパッション、これからの展開を期待させるミステリアス感が詰まった一冊である。

文=朝井麻由美

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