“そのうち夫婦になる”初々しい恋人未満のふたりによる、ピュアなラブストーリーに癒される人続出!

マンガ

公開日:2022/1/18

透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~
『透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~』(岩飛猫/双葉社)

 人間には「癒し」というものが必要である。少なくとも私はそうだ。漫画にしても、ハードな内容の作品ばかり読んでいると、心が癒し系の作品を求めるようになる。だからこそ、普通の日常を題材にしたラブコメ作品などは定番として好まれているのだ。『透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~』(岩飛猫/双葉社)は「ふたりのやりとりが良すぎる」「胸がきゅんきゅんする…」などとSNSでも評判となり書籍化された作品だが、メインキャラふたりのピュアすぎるやり取りがあまりに初々しく、癒しを求める人々には最適だ。

 本作は世界観こそ「人間、獣人、エルフなどあらゆる種族が集う世界」だが、描かれるのは「透乃眼あきら」と「夜香しずか」のラブストーリーである。ただ、「異種族」という部分が実は重要で、透乃眼は「透明人間」であり、しずかは人間で、目が見えないという設定になっているのだ。ちなみに透乃眼は探偵事務所のオーナーで、しずかはそこの事務員として働いている。

 透明男の透乃眼は、普段は透明な体に衣服をまとって生活している。探偵活動を行なう際には、衣服を含めて完全に透明化し、対象に気取られることなく調査を進めるのだ。しかし彼が完全に姿を消してもその存在を認識できるのが、しずかなのである。彼女は目が見えないため、嗅覚や聴覚に敏感だ。ゆえに透乃眼の匂いや足音などを敏感に察知し、彼の居場所を認識できるのだ。見えないはずの自分をきちんと認識してくれるしずかに対し、透乃眼は「ときめいてしまいました」と、彼女を食事に誘うのだった。

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 ふたりは意識しあう関係で「そのうち夫婦になる」のではあるのだが、すぐに交際に至るわけではない。お互いなかなかデートにも誘えない、近づきそうで近づけない──そんなじれったい関係のふたりに、同じ探偵事務所の調査員である獣人女性の写螺子(じゃらし)もヤキモキしてしまうのである。このようなふたりの距離感というか初々しいやり取りが「尊い」と、読者からの支持も高いのだ。

 また本作では「相互理解」というテーマも存在しているように思う。透乃眼は透明人間であるがゆえに、他者からある意味「忘れられた存在」になっていた。彼がかつて肝試し大会で帰れなくなったとき、誰かが捜しに来るのを待っていたが、結局誰も来なかった。他の誰も、透乃眼がいないことに気づいていなかったからだ。そのことは彼に小さくない傷を残した。だからこそ、自分のことを「見つけてくれる」しずかに惹かれたのかもしれない。そしてしずかも、自分の境遇を理解して優しく接してくれる透乃眼に惹かれていくのである。同じ人間同士でも分かり合うことは簡単ではない。しかし異種族でも、互いの立場を思いやれば相手を深く理解できることを本作は教えてくれるのだ。

 基本的にこの物語は透乃眼としずかの甘酸っぱい恋模様で綴られている。もちろん難しいことは考えず、ふたりのやり取りにキュンキュンしながら癒されるのが王道の楽しみかただろう。しかしこのふたりの関係が、異種族があたりまえに交わる優しい世界で成立していることに気づけば、また少し違った感じかたもできるのではないかと思える。

文=木谷誠

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