「今月のプラチナ本」は、小田雅久仁『残月記』

今月のプラチナ本

公開日:2022/1/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『残月記』

●あらすじ●

順風満帆な日々が、満月が裏返った瞬間に一転。同姓同名の別人と入れ替わってしまう(「そして月がふりかえる」)。枕の下に入れて眠ると悪夢を見るという、叔母の形見の風景石。試してみると、石の中の世界に迷い込んでしまい……(「月景石」)。全体主義独裁国家となった日本。感染すると強制的に完全隔離を余儀なくされる「月昂」に冒された男女の、一途な愛を描いた表題作(「残月記」)。全3編を収録。

おだ・まさくに●1974年、宮城県生まれ。関西大学法学部政治学科卒業。2009年『増大派に告ぐ』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。13年、受賞後第一作の『本にだって雄と雌があります』で第3回Twitter文学賞国内編第1位。『残月記』は9年ぶりとなる待望の新刊。

『残月記』

小田雅久仁
双葉社 1815円(税込)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

「自己の彼方に真実を見る者」

とは、表題作「残月記」の終盤で意外な人物が発する言葉だ。月昂という感染症を軸に、荒廃した社会状況と独裁政治の出現を描いたドキリとさせられる小説でありながら、主人公・宇野冬芽や独裁者である下條拓など、平板ならざる彼らのI(アイ)に徹底して迫った作品。一言一言が重くのしかかり、闇夜に一人、胸騒ぎがして月を見上げた。〈それはきっと拗ね者の思想だ〉。運命に翻弄されながらそう自問する冬芽が辿り着く境地を目の当たりにしたとき、忘れられない景色が広がるだろう。

川戸崇央 本誌編集長。編集を担当した『ルポ路上生活』が発売中。2カ月間路上で取材を続けた著者・國友公司氏のインタビュー記事がP78に掲載されています。

 

説得力ある筆致に圧倒!

ファンタジーが苦手だ。殊に近年その傾向は強くなり、映像、マンガ、小説等の作品も途中でついていけなくなっては、思考が止まる(想像力のない自分の心が荒んでいるんだとは思う)。それなのに本書は、特に「そして月がふりかえる」はつまずくことなく、一気に読破していた。しかも「リアルにありそうで怖いんだけど」と思いながら、背筋をぞくぞくさせながら。すごい体験だった。これが面白さなのか! リアルな設定に加え、静寂さと説得力ある筆致だからこそ。作家の才能に震えた。

村井有紀子 星野源さん『いのちの車窓から』の文庫が1月21日発売になります! 新カバーのイラスト、とても美しいです。ぜひお手にとってみてください!

 

「なぜ生きる?」気づきをくれる作品

表題作「残月記」で描かれるのは、不治の感染症に冒された主人公・冬芽の過酷な人生。望みを砕かれ奪われ、それでもささやかな幸せを夢見ながら懸命に生きる冬芽の姿を通して、作者は〝そうまでして人はなぜ生きるのか〟と問いかける。「人を生かすのは楽しみなんかじゃないよ。恐怖だ。恐怖こそが人を生かすんだ」。この言葉の意味は、私には正直まだわからない。10年後、20年後、年齢を重ね再読するたび新たな気づきをくれる、私にとってそんな作品になりそうな気がしている。

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無名の生涯をてらす、凄まじい月明り

うちのめされておりまする。全作すごいけど、表題作が凄まじすぎて。勝者の歴史には記されない、「無名な男の生涯にひとすじの光をあてようという試み」。さまざまな残酷な史実を想い起こさせるディテールが、幾重にも織り込まれ……ってもっともらしく何か書こうとしたけど正直「こんなすごいもの読んじゃってどうしよう」しか言えないよ。しかもラブストーリーとしても最高。冬芽はいい男すぎ。世界がどんなに残酷で、生きて死ぬだけの人生でも、愛だよな、愛。

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月に恐怖心を抱いたことはあったか

それまで、「月の物語」と聞いて思い浮かべるのは『かぐや姫』のような作品だった。「月」そのものに対しては神秘的で美しい印象しかなかったが、本書を読む前と読んだ後では、月に対するイメージが大きく変わる。むしろ、私はなぜ月に対して「美しい」と感じていたのだろう? そして、こういう原稿を書いている時に限って、驚くほど大きい月が「こっちを見て、追いかけてくる」ような心地になる。物事の考え方が一変するような視点を持つ本と出合い、あらためて読書の面白さを感じた。

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きっとどこかにある世界

「月」を題材とした3編に共通するのは、運命に翻弄される主人公たちの“ささやかさ”。非常勤講師から教授になり、家族と幸せな日々を送っていた高志(「そして月がふりかえる」)、叔母の遺品である石を通して月世界に誘われる澄香(「月景石」)、「月昂」に感染し、剣闘士として戦うことになる冬芽(「残月記」)。平凡な毎日を生きていた彼らの日常が覆されていく様に、人生の曖昧さを思い知らされる。現実にもこの世界が広がっているのではないかと思わずにはいられないのだ。

前田 萌 愛犬と久々の遠出をしました。すれ違う人たちへの愛想が良いこと……。可愛いと言われてとても嬉しそうでした。犬にも外面はあるのですね。

 

日常は“一寸先は闇”に囲まれている

3つの中短編からなるこの作品の根底に漂うのは、“目前に広がる現実の不安定さ”である。満足とまではいわずとも、流れゆく日々に身を置くことがいかに幸福であったかを、人は状況が変わった後に思い知る。「そして月がふりかえる」では、怪しげな満月をきっかけに高志が築いてきた人生の何もかもが変わってしまう。「その“狂気”が俺の側にあるのか、世界の側にあるのか」。今まで信じていた現実が変わってしまったら最後、もはや何が真実なのかわからない恐ろしさが募っていく。

笹渕りり子 数カ月前から始めた一人暮らし。家事をしながら日常をこなすことの難しさを痛感。いかに今まで実家の恩恵を受けていたかを思い知っております。

 

今生きている世界はホンモノか?

幼い頃、「本当の自分は眠り続けていて、今見て感じているものはすべて夢ではないか」と空想し、恐ろしくなったことを思い出した。頬をつねり夢ではないかを確認した。ちゃんと痛かった。本著の、夢(月)と現実(地球)を行き来する描写、現実が虚構であったかのような表現が、読んでいるこちらの足元をグラグラと揺さぶってきて、今まさに本を読んでいる自分自身の存在を疑いたくなる。現実と物語の線引きが曖昧になるこの感覚は、ファンタジーの醍醐味だ。ぜひ堪能してほしい。

三条 凪 今号から編集部に加わることとなりました。よろしくお願いします。謎解きと音楽ライブとお酒が好きです。作品の魅力を伝えられるよう頑張ります。

 

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