39歳マンガ家の妻、出産直後に不倫した夫、思わせぶりな18歳年下のアシスタント…リアルな感情が揺れ動く『シジュウカラ』ドラマ化!

マンガ

公開日:2022/1/7

シジュウカラ
『シジュウカラ』(坂井恵理/双葉社)

 女だからと軽んじられることと、女性として大切に扱われることは、まるで違うはずなのに、男性にとってはときどき同義になってしまうのはなぜなんだろうとマンガ『シジュウカラ』(坂井恵理/双葉社)を読んで不思議になる。

 1月から山口紗弥加主演でドラマ化が決定している同作は、39歳の主婦・綿貫忍が主人公。デビューして20年、マンガ家として鳴かず飛ばずの彼女は夢を諦め、家族とともに東京を離れることを決意する。ところが地元に戻って早々、かつて描いたマンガが電子書籍市場で大ヒット。思わぬ収入と仕事のオファーを手に入れるのだが、新たに雇ったアシスタントは、思わせぶりな態度をとってくる18歳年下の美青年で……。

 と、あらすじはドラマティックだが、本作の読みどころはそこじゃない。実は青年――橘千秋は、綿貫家の過去に関わっていることが発覚するなど、センセーショナルな展開が続くのだけど、大事なのはそこでもなく、千秋との出会いによって覚醒していく忍の成長だ。

advertisement

 過去に忍が描いたマンガは、出産直後に不倫した夫に対するやりきれなさから生まれたもの。そして今、いちばんそばにいてほしいときに他の女を抱いていた夫にしか求められない現実に、忍は心底、倦んでいた。そんな彼女がマンガを再び描くことは、「人生」を取り戻すことであり、夫と息子の目を盗んで千秋との関係を育んでいく過程は、誰にも関与されない「自分」を取り戻すことでもあったのだ。

 ただのおばさん。売れないマンガ家。こんな作品。聞いて心地のいいものではないと自覚しながら忍が自虐をくりかえしてしまうのは、他でもない夫が彼女を認めてくれないからだ。暴力をふるうわけじゃない。一時の浮気は終わり、家庭も平和に維持されている。けれど言葉の端々から、忍の加齢も、太った身体も、稼げるわけじゃない仕事も、軽んじていることが伝わってくる。そんな夫がいまだに夜の営みを求めてくるのは、忍を愛しているからというよりも、忍を「女」「妻」という枠に押し込め支配しようとしているだけに見えてしまう。

 けれど千秋は、違った。彼だけは忍を、女という性をもった一個人として、尊敬するマンガ家として接してくれた。だからこそ、その裏に攻撃的な下心を秘めていたとしても、言葉のひとつひとつが忍の心に響き、自分の手で自分の人生を取り戻そうと決意することができたのである。

 とはいえ、多感な中学1年生の息子を蔑ろにしたいわけじゃない。大事なものを見誤らないようにしながら、一日、一秒を、覚悟をもって生きようとする忍の姿には共感する読者も 多いだろう。一方で、経済力がないことで精神的にも社会的にも追い詰められてしまう姿は、忍だけでなく、千秋とその周辺の人々を通じても描かれていく。生きるため、性的なことを含めた屈辱と傷つきに耐えてきた人々が、一歩ずつ前へ進もうとあがく姿は、読む人にとっての勇気ともなるはずだ。

 そしてその繊細な表現があってこそ、ドラマティックな展開も生かされていく。大事じゃない、とは言ったが、12月に刊行された4巻、そして3月まで毎月刊行されていく5巻以降では、千秋だけでなく高校時代の元彼なども絡んで、なかなか波瀾万丈に物語が転がっていく。ドラマとあわせてぜひとも、楽しんでいただきたい。

文=立花もも

あわせて読みたい