漫画『君たちはどう生きるか』著者最新作!「こんな奴いたよな…」とクスっと笑える日常系高校部活コミック

マンガ

公開日:2022/1/5

ハト部 上・下
『ハト部 上・下』(羽賀翔一/双葉社)

 パッとしない日常こそが、今ではとっても懐かしい。『ハト部 上・下』(羽賀翔一/双葉社)は、高校時代の超ゆる~い空気感を味わわせてくれる爆笑日常コメディ。「cakes」での連載中から話題を呼んだ、漫画『君たちはどう生きるか』(原作は吉野源三郎)を手掛けた羽賀翔一氏の書き下ろしコミックだ。『宇宙兄弟』の小山宙哉氏は「“あの頃こんなやついた”感とキャラの心情に心当たりがありすぎて、まるで自分の物語のよう」だといい、『ドラゴン桜』の三田紀房氏は「毒にも薬にもならないが、心に効くサプリのような漫画」だという。本当にこの漫画は、大きな事件は起こらない。でも、そんな高校生ならでは日常に毎話クスッと笑わされてしまうのだ。

ハト部 上巻p.3
🄫羽賀翔一/コルク 2021

 主人公は、イケてるわけでは絶対ないけれど、スクールカースト最底辺ってわけでもない高校1年生の林くん。彼はある時、体育の授業で「2人1組」になる時、他のクラスのニイミくんと知り合った。くねくねしていて何だか頼りないニイミくんに「置き勉もできるしゲームもあるし」と誘われるがまま連れてこられたのが、謎の部活動「ハト部」の部室。名前以外謎の部活の部室にいたのは、妙に人がイラつく言動を取る岡本と、父親ゆずりの天然パーマでなんだかんだしっかり者のチャンさん。さらには、何かとハト部にちょっかいを出してくるサッカー部のタカハシや一切部活動に関与しない顧問のバネちゃんなども登場。気づけば、林くんは、ハト部の一員になっていた。

ハト部 上巻p.6-7

 とにかくこの作品は、キャラクターのクセが強い。一番印象に残ったのは、岡本。言うことやること全てが何だか鼻につく奴なのだ。なんでも、ハト部は、ハトを飼育して、そのハトで伝書鳩の全国大会に出場するという部活らしく、過去には優勝経験もあるらしい。岡本は、それを偉そうに林くんに説明するが、実は部長以外は誰もハトに触ったことがないと知って林くんは岡本の態度にちょっぴりイラっとする。林くんの担任のことをイケてるグループと同じ呼びかたで呼んだり、女子の前だけいい顔したり、部室でこっそり安田美沙子のDVDを見ていたくせに見ていたとバレれば「林くんにはまだ早いか」と言って堂々とし始めたり…。モヤモヤさせられるが、どうにも憎めない。その他のキャラたちもどこかで見たことあるような人物ばかり。「ああ、高校時代、こんな奴いたよな」と何度も笑わされてしまう。

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 炭酸飲料の「アンバサ」、ミスタードーナツで発売されたばかりのポンデリング、MDプレイヤー、RIP SLYMEの楽曲「楽園ベイベー」、安田美沙子や熊田曜子のグラビア雑誌…。登場するアイテムは、ノスタルジック。高校時代のゆる~い時間にタイムスリップしたような気分をさらに高めてくれる。ハト部の部員たちは、部活動に情熱を燃やしているわけではなく、ただ部室でダラダラしているだけ。だが、そんなパッとしない時間を過ごす彼らも毎日一生懸命なのだ。小さなことに全力で葛藤する彼らの姿が面白い。どうでもいいことにたくさん悩んで過ごしていた日々が何だか懐かしくなる。

ハト部 下巻p.148-149

 このどたばたスクールコメディは、とにかく下らない。だけれども、読んでいると、どうしてこんなにも心が和んでしまうのだろう。特に得るものはない。だけれども、忘れていた何気ない時間を思い出させてくれる。あなたも高校時代に思いを馳せながら、妙に癒されるこの漫画を読んでみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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