『薬屋のひとりごと』著者新境地! 真面目少女と天然不死少年の新感覚コメディ

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/7

不死王の息子
『不死王の息子』(日向夏/主婦の友インフォス)

 不死身の体を手に入れること。それは、人類の大いなる夢ではないだろうか。だが、手に入れたら手に入れたで、もしかしたらとんでもない日常が待ち受けているのかもしれない。『不死王の息子』(日向夏/主婦の友インフォス)は、不死身の転校生と真面目な少女のドタバタカニバリズム・コメディ小説。「薬屋のひとりごと」シリーズで累計発行部数1300万部突破の人気作家・日向夏氏が生み出す“生首と臓物飛び交う”ガールミーツボーイだ。

 舞台は、人狼や吸血鬼など人外たちが当たり前に暮らす現代の日本。主人公の由紀子は、中学受験を控えた真面目な小学6年生だ。ある日、彼女のクラスに転校生がやってくる。転校生の名は、山田不死男。不死身の体をもつ彼は、人外の中でも孤高とされる不死王の一族の一員なのだという。そして、同じ日、由紀子は同級生が食人鬼に襲われているのを目撃、助けようとするも自身も食人鬼に襲われてしまう。不死男はそんな彼女を救出。不死王の一族の血肉には、傷を治したり、生命を再生したりする効能がある。不死男の血を飲まされた由紀子は一命を取り留めたのだが、浮世離れした山田の母の機転による「ある行為」によって、不死男以上の強力な再生力を発揮する人外になってしまった。不死王の一族と同族、人外である不死者になってしまったのだ。

 しっかり者の由紀子と、天然すぎる不死男のミスマッチなコンビから目が離せない。由紀子は、小学生とは思えない落ち着き具合。だが、クールなようでいて、情に厚く、なんだかんだ面倒見もいいのだ。そんな由紀子は、担任に頼み込まれて、不死男の世話を任されることに。不死男は、歩くだけで死と隣り合わせになり、何度も死んでは何度も生き返る厄介な少年なのだ。ある時は、3階の教室の窓から落下したり、ある時は、階段から転げ落ちたり、ある時は、理科の授業で自分の手をジリジリと焼いてしまったり。毎日死亡フラグの連続。由紀子の日常は、明るく死にまくる不死男にどんどん侵食されていく。だが、無駄に明るい不死男にはある秘密があるらしく…。だんだんと距離を縮めていく2人の姿に「一体彼らはどうなっていくの?」と次の展開が気になってしまう。

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 なんでも不死王の一族は、不老不死に近いが、正確には不死身ではないのだという。血肉は万病に効く薬となるし、血族を増やすにも役立つが、何度も即死攻撃を受ければ、与えられた血肉を失って死ぬ可能性がある。だが、「食らえば不死身になれる」と噂される不死者の血肉を狙う食人鬼たちは、不死王の一族に、そして、不死者になってしまった由紀子に襲い掛かる。彼らは無事でいられるのか。真面目な普通の女の子に再び平穏な日常は戻ってくるのだろうか。

 不条理かつスプラッタな日々はブラックジョークが効きまくり。ツッコミどころが満載だ。日向夏氏の元々のファンは、『薬屋のひとりごと』とはまったく異なる世界観に驚かされるだろうし、未読という人もスピード感あふれるストーリーにあっという間に飲み込まれてしまうに違いない。これは新感覚。このシュールなライトノベルを、あなたも体感してみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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