炭治郎と堕姫が対決。ド迫力の剣戟を生み出した、高精度の絵コンテ/TVアニメ『鬼滅の刃』第6話

アニメ

公開日:2022/1/14

鬼滅の刃
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 人食い鬼と対峙する少年。これまで培ってきた技を繰り出すも、その切先は鬼に届かない。鬼と人間との間にある、圧倒的な力の差。鬼は容赦なく建物を破壊し、息をするように、そこにいる人びとをも殺していく。理不尽に命を奪う鬼に、怒りをぶつける少年は炎に包まれた刀で切りつける。

 TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編第六話「重なる記憶」は、竈門炭治郎・禰豆子の兄妹が上弦の陸の鬼・堕姫と対峙する、前半最大のクライマックス。遊郭に鬼殺隊最強の剣士である柱が来ていることを知った堕姫は、人間を捕らえていた帯と同化し、その姿を変貌させる。人の心を持たず、理不尽に命を奪う上弦の鬼・堕姫に怒る炭治郎は、目を血走らせ、息をすることも忘れて堕姫に切りかかる。炭治郎が限界を迎えたとき、禰豆子が参戦。異形の姿へ変貌するのだった。

 このエピソードは原作コミックスでは第10巻第80話「価値」~第83話「変貌」までにあたる内容。上弦の鬼と炭治郎の直接対決の始まりとなるエピソードである。この炭治郎のヒノカミ神楽と、堕姫の血鬼術がぶつかり合うアクション満載の話数を、今回のアニメ遊郭編ではすさまじい迫力で描いていた。マンガの「画としての迫力」を、アニメならではの「動きとタイミング」を活かした多彩な手法で表現していたのだ。

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 たとえば、遊郭を破壊した堕姫が、抗議してきた中年男性に攻撃するシーン。原作コミックスでは、堕姫が縦横無尽に切り刻む攻撃シーンを2ページ見開きのひとコマで見せている。大きな紙面に遊郭の横丁が深い奥行きで描かれており、堕姫の斬撃が瞬時に広範囲で行われたことがわかる、迫力満点のコマだ。そのシーンを、アニメでは高速のカメラワークで見せている。堕姫の手前で無数の帯がムチのようにしなり、街が切り刻まれていく過程を、カメラが高速でズームアウトしながら見せていく。マンガの見せ方と、アニメの見せ方の違いがはっきりとわかるシーンといえるだろう。

 また、炭治郎が屋根の上にあがり、堕姫と刃を交えるシーンも、マンガとアニメの表現の違いがわかる構成になっている。原作コミックスでは、堕姫の左足を炭治郎が左手で掴むコマ(大きめのコマ)→炭治郎が右手で剣を振るコマ→堕姫の驚いた顔のアップのコマ→堕姫が炭治郎の一撃をかわすコマ、そして堕姫が後ろ跳びで距離を取るコマ→炭治郎が構えるコマで構成されている。アニメではそこをトラックバック(被写体からカメラが遠ざかる)や細かいパン(カメラを水平移動させる)、画面動(キャラクターの動きに合わせてカメラを揺らす)といった動き続けるカメラワークを駆使して、臨場感たっぷりに見せているのだ。

 そして、「美しく強い鬼は何をしてもいいのよ」と言い放つ堕姫に、「わかった、もういい」と会話を打ち切り、炭治郎が切りかかる後半のクライマックスシーンも見ごたえたっぷり。堕姫の血鬼術「八重帯斬り」を、炭治郎は剣で切り、そのまま帯を切り刻んで、ヒノカミ神楽「灼骨炎陽」を放つ。この一連のアクションシーンを、原作コミックスでは迫力満点の構図で作画していた。アニメではその構図をしっかり踏襲しつつ、じりじりとじらすようなスローモーションと、目にも留まらぬ高速剣戟といった極端な緩急を付けて表現。アクションのテンポを次々と変化させていくことで、すさまじい緊張感を生み出していた。

 この遊郭編第六話の絵コンテを担当したのは三浦貴博氏。彼は、劇場版『空の境界 第六章 忘却録音』(2008年)、TVシリーズ『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』(2015年)で監督を務めた演出家である。作品の世界観をしっかりと踏まえつつ、けれん味あふれるアクションを演出することで定評の高いクリエイターだ。

 劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel](以下、[HF])』三部作(2017~2020年)では、章ごとに彼が絵コンテ・演出を担当する「Mパート」と呼ばれるアクションパートがあり、圧倒的なバトルアクションを長尺で楽しむことができた。[HF]の『第一章』では高速道路の車両の上でトリッキーな動きをする真アサシン、俊足で駆け跳ね回る韋駄天のランサーといったキャラクターたちのアクションをめいっぱい描き、『第二章』では怪力のバーサーカー、圧倒的な破壊力を持つセイバーオルタといったキャラクターのパワーバトルを、大破壊とともに描いた。『第三章』ではセイバーオルタと、長い髪と腕についた鎖をなびかせながら躍動するライダーというキャラクターの高速バトルを担当。いずれもアニメ映画の歴史に残るであろう、すさまじい映像になっている。

 近年ではTVアニメ『takt op.Destiny』の第1話の絵コンテを担当したり(空中アクションてんこ盛り)、劇場版『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿 ソロモン-』の前半アクションパートの絵コンテを担当するなど、ufotable作品以外でもその手腕を振るっており、間違いなく今注目の演出家のひとりと言えるだろう。

 その三浦氏は、『鬼滅の刃』無限列車編では絵コンテを担当。炎柱の煉獄杏寿郎が客車に現れた鬼に対して、初めて日輪刀を抜き「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」を放つシーンの絵コンテも、彼によるものだ。火のついた灯篭が灯っていき、炎の剣筋に変化していくイメージのシーンはインパクト満点。彼こそが「炎の呼吸」の基本形を作った人物だと言えるだろう。

 この遊郭編第六話は、彼の絵コンテにより、日輪刀を高速で振りつつ、じわじわと距離を詰めていく炭治郎と、トリッキーな動きをする帯を使って攻撃する堕姫のアクションが迫力満点のものに仕上がった。カメラワーク、スローモーション、高速剣戟、原作コミックスに描かれているアクションの段取りをしっかり踏まえつつ、わかりやすく見やすい画面を作ったのは、まさしく彼の功績ではないだろうか。

 第六話では、作画陣も小船井充、木村 豪、國弘昌之の三氏(いずれも、『活劇 刀剣乱舞』の剣戟アニメーター)、さらに阿部望氏など、ufotableの最大戦力となるアニメーターたちをつぎ込んでいる。まさしく「勝負回」と言えるだろう。

 極限を超えた炭治郎と異形となった禰豆子は、堕姫をあと一歩のところまで追い詰める。音柱の宇髄天元や我妻善逸、嘴平伊之助も戦場へ駆けつけようとしている。極限の緊張感とともに第七話へ。はたして上弦の鬼を打ち取ることができるのか!

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