本好き必読! 東京駅の地下に眠る“幻の図書館”…司書と古書ハンターが「本」を守る、戦う!

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/17

水底図書館 ダ・ヴィンチの手稿
『水底図書館 ダ・ヴィンチの手稿』(金子ユミ/ポプラ社)

 本好きというものは、本が集まるすべての場所にワクワクさせられる生き物だが、もし、東京駅の地下に幻の図書館があったとしたら……。『水底図書館 ダ・ヴィンチの手稿』(金子ユミ/ポプラ社)は、東京駅の地下に佇む幻の図書館が舞台。「もし、そんな図書館があるならば、ぜひとも行ったみたい」と思わずにはいられないのではないだろうか。それにこの図書館で巻き起こるのは、本をめぐる事件だ。ひとたびページを開けば、その続きが気になって気になって仕方がなくなってしまう、エンターテインメント作品なのだ。

 物語の舞台は「最重要秘匿帝都書庫」、通称・水底図書館。大正時代、現在の東京駅が建設された際、その地下に密かに造られた、稀覯本(きこうぼん)ばかりを集めた秘密の図書館だ。東京駅の地下、しかも、巨大な二重の水槽の中にあるこの奇妙な図書館は、希少な稀覯本の取引の場でもあり、世界中から腕利きのディーラーたちが集う。だが、落札者は、価格で決まるのではない。代々五色家が跡を継ぐこの図書館の館長・「五色夢二」が「持ち主にふさわしい」と認めた者だけが落札者として選ばれる仕組みなのだ。水底図書館で代々司書を務める灘一族の未森は、古書ハンターの貝塚秋に振り回されながらも、権謀や外敵から本を守り続けている。しかし、ある時、弱冠23歳にして、この図書館の七代目館長「五色夢二」に就任した五色すばるが何者かに襲われ、意識不明となってしまった。一体、誰がすばるを襲ったのか。未森は、日々のオークションや司書としての仕事をこなしながら、秋とともにその真相を追うことになるのだが…。

 医師であり占星術師でもあったミシェル・ド・ノストラダムスの『予言集』。万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチが遺した手稿と、その弟子の習作。アメリカ先住部族たちとの融和に努めた人物による『英雄の日記』…。この作品に登場する稀覯本はすべてがあまりにも魅力的。だからこそ、危機に見舞われることになるのだ。特に恐ろしいのが、古書籍を盗む国際窃盗団“笑う猫”。組織の実態、首謀者の正体は不明という彼らは、水底図書館の貴重なコレクションをたびたび狙う。一体その目的は何なのか。もしかして、すばるを襲ったのも彼らの仕業なのだろうか。度重なる事件と謎が謎を呼ぶ展開が続いていく。

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 そして、未森は、事件を経験する中で、思い悩んでいくのだ。水底図書館は、貴重な本の収集と保存を第一の目的とする場所。あまりに特殊なこの図書館を維持管理するためには、どうしても閲覧に制限が出て当然だろう。だが、人類の歩みそのものといった古書籍を集めた図書館は、本来は広く開かれて然るべきではないのか。物語の果て、未森はそのジレンマとどう向き合っていくのだろうか。

 人間の喜怒哀楽や知識は無限で、本はその無限を記したものだ。それならば、図書館は、永遠に完成することはなく、人の無限の思いを抱え続ける場所だ。この作品を読んで改めて思ったのは、本、そして、図書館という場所は、つくづく素晴らしいなということ。どうして人は物語を書くのか。どうして人は物語を読むのか。ついそんなことにも思いを馳せたくなってしまうこの作品は、本好きならば必ず魅了されるに違いない一冊だ。

文=アサトーミナミ

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