「ツーブロック禁止」「靴下の色」…理不尽な校則に生徒だけでなく教師も振り回される現状から日本の未来を考える

社会

更新日:2022/1/19

校則改革 理不尽な生徒指導に苦しむ教師たちの挑戦
『校則改革 理不尽な生徒指導に苦しむ教師たちの挑戦』(河崎仁志、斉藤ひでみ、内田良/東洋館出版社)

 多様性が認められつつある今。学校の「校則」を見直すべきという声も多い。目立つ転機となったのは、2017年10月に大阪府立高校の元女子生徒が大阪府を相手にして訴えを起こした「黒染め強要訴訟」である。元女子生徒は学校側から地毛の茶色い髪を黒髪に染めるよう強要され精神的苦痛を受けたとして、大阪府に慰謝料を請求。2021年2月16日時点で、大阪地裁は頭髪指導に対しては適法と判断したものの、生徒が不登校になった後の指導内容に対しては違法性を認め、大阪府に33万円の賠償を命じた。

 学校を運営するのは監督役の「大人=教師」だ。しかし、その場の主役は生徒の「子ども」たちと主張するのは、教育現場に立つ教師の証言をまとめた『校則改革 理不尽な生徒指導に苦しむ教師たちの挑戦』(河崎仁志、斉藤ひでみ、内田良/東洋館出版社)である。校則の見直しは、ひいては「日本の未来」にも繋がりうる問題だという。


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校則の改正を実現した中学校の取り組み

 実際、校則の改革に臨んだ学校がある。兵庫県明石市立朝霧中学校は、教師、生徒、保護者による「校則を考える会」を発足。希望者参加の会議を経て、従来あった校則の項目を一つひとつ見直していった。

 同校では校則を見直すにあたり、意見交換の上での共通認識「校則決定において重視すべき事項」を設けた。例えば、会議では「中学生らしい」「今まで問題なかったから」を禁句とした。時代によって、校則に求められることも変わる。同校の河崎仁志教諭は、これらの共通認識を持った上で議論を進めたことにより「最終段階まで円滑に進めることができた」と本書に寄せている。

 多数決だけではなく「少数意見も大切にする」というのも、会議で注意を払っていたことだ。そして、実際の議論では以下のようなやり取りが行われた。

◯ ストッキング

保護者「ストッキングの色は何色でもいいのでは?」
生徒「何でもありは違うと思う。小学生も見ているのである程度の制約は必要。タイツ、レギンスはOKにして色は黒、紺、グレーでどうか?

◯ 靴下

保護者「白一色の靴下は汚れやすく洗っても真っ白にはならない」
生徒「ストッキングなどと同じく黒、紺、グレーもOKでいいのでは?」
保護者「黒や紺の靴下でも無地のものはあまり売っていないのでワンポイントはOKにしてほしい」
教師「ワンポイントOKとするならワンポイントの大きさは? 以前ワンポイントありの学校で靴下全体がキャラクターの顔みたいなのをワンポイントという生徒がいたがどう思うか?」

 ほんの一例であるが、こうした議論を経て同校では改正した校則の運用を開始した。かつて、教育現場では「服装の乱れは心の乱れ」という言葉が使われ続けてきた。しかし、先述の河崎教諭は「逆に校則が緩くなって髪型等の自由度が増し、ルールの範囲内で多様な格好をすることで学校が荒れることはない」と実感を述べている。

 河崎教諭は「生徒の多様な格好を見て『荒れ』と感じるか『多様性』と感じるのかは教師の主観の問題である」とも主張しているが、同校の取り組みは、締め付けるばかりが教育ではないと考えさせられる。

ツーブロック禁止の校則で負担を強いられた教師たち

 理不尽な校則は、生徒のみならず教師にも大きな負担となる。先述の河崎教諭は「法的根拠がなく理不尽な校則は、生徒にとっては理不尽なルールであり、それを指導しなければならない教師にとっても心理的、時間的なコストが大きい」と実感を伝える。

 例えば、校則の改革に臨んだ朝霧中学校では、かつてツーブロックを禁止していた。改正後はOKとなったが、それ以前は「どこからがツーブロックなのか?」「刈り上げの高さが高すぎるか? 刈り上げ部分の毛が短すぎか? 頭髪の短い部分と長い部分の差が大きすぎるか?」など、議論の上で校則違反かどうかを決めていた。

 校則違反となった生徒には改めて散髪するよう指導していたが、生徒の保護者から「どこがダメなんでしょうか?」「どういう風に散髪してもらえばいいですか?」などの問合せが寄せられ、教師は「今はそういうルールなんで…」と苦しまぎれの説明で納得してもらうしかなかった。場合によっては、教師の説明に納得が行かない保護者との間で関係性が崩れてしまったケースもあったという。

 こうした指導に「誰にとっても無益なことは即刻やめるべき」と思っていたという河崎教諭。実際の現場では「(教師同士による)学年会議や週に1回の生徒指導委員会でも校則に関することで多大な労力が割かれる」といった場面もあり、「理不尽な指導への抵抗感から、教師という職業へのやりがいが失われたり、心を病む一つの理由になったりしていたら、本末転倒」と感じていたという。

 校則の改革には「教師によるSTEP ZEROの舞台設計が不可欠」と、著者のひとりである内田良氏は述べる。学校はブラックボックス化しており、その環境が適正に運営されているかどうか外から観察するのは難しい。しかし、校則の議論が全国的に広がりつつあるのは一筋の光ともいえる。主役の生徒や彼らを見守る保護者、運営を担う教師の誰もが、疲弊することなく過ごせる環境を作り上げるのが理想なのだろう。本書は、そうした考えを抱かせてくれる1冊だ。

文=カネコシュウヘイ

(※)河崎仁志氏の「崎」は「たつざき」が正式表記

校則改革 理不尽な生徒指導に苦しむ教師たちの挑戦
https://www.toyokan.co.jp/products/4746

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