料理で綴る「栗原家」の物語。食と家族を愛する栗原心平の実用レシピ集

暮らし

更新日:2022/1/25

栗原家のごはん 祖母から母に、母から僕に、そして僕から息子へ。
『栗原家のごはん 祖母から母に、母から僕に、そして僕から息子へ。』(栗原心平/大和書房)

 あなたには「おふくろの味」や「家庭の味」として思い浮かべる料理はあるだろうか。家で食べたご飯だけでなく、外食の味やおばあちゃんの家で食べた料理など、子ども時代の思い出と食が結びついている人も少なくないはずだ。そんな「家庭の味」の中でも、料理を仕事にする人の家の食卓を覗くことができるのが、『栗原家のごはん 祖母から母に、母から僕に、そして僕から息子へ。』(大和書房)だ。

 本書は、料理家の栗原心平氏が、祖母、母、父から受け継がれたレシピや、自身が家族にふるまう定番レシピまで、栗原家に伝わる家庭の味を紹介する1冊。母である料理家・栗原はるみさんが作ってくれた定番料理や、著者の息子の好物などが、家族に対する思いを交えて紹介されている。

栗原家のごはん 祖母から母に、母から僕に、そして僕から息子へ。P11

 本書に載っているレシピは、日々の食卓に並ぶ日常的な料理。かといって味気ないわけではなく、どれも格別においしそうだ。必要な食材や調味料も、一度使って冷蔵庫で忘れ去られるような特別なものはなく、どこでも手に入る身近なアイテムばかり。材料欄に、めんつゆやすし酢など、出来合いの調味料が自然に並ぶのも、共働きの家庭や若い世代には馴染みが良い。作り方も、材料を混ぜて鍋で煮る、焼くなどのシンプルなものが多く、調味料の分量や工程を多少間違えてもおいしく仕上がりそうだ。日常の家庭料理としてはハードルが高い揚げ物レシピも、写真付きの説明がシンプルでわかりやすく、気軽にできそうな野菜の揚げ浸しあたりからチャレンジしてみたくなる。

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栗原家のごはん 祖母から母に、母から僕に、そして僕から息子へ。P86

 しかしその中でも、栗原家ならではの「ひと手間」が光る。たとえば、胡麻和えに使う胡麻は、すり鉢でねっとりするまでしっかりと「する」ことでぐっとおいしくなるという。日常の中でできるちょっとした工夫の提案によって、家族の食卓を幸せにしてきた栗原家のこだわりが、この1冊に詰まっている。

栗原家のごはん 祖母から母に、母から僕に、そして僕から息子へ。P23

 栗原家を象徴するレシピに加えて、家族を語るエッセイでも栗原家の物語が伝えられる。厳しく頼れる父親(ニュースキャスターとして活躍した栗原玲児氏)と、料理家としてのイメージそのものの温かい母、料理家で魚屋を経営する姉・栗原友さんとのエピソードが面白い。約束を守らなかった自分に対する父の厳しさに圧倒されたこと、強い姉の尻に敷かれたことなど、どの家でも似たようなことがありそうな逸話の数々に、著者の少年時代の情景が目に浮かぶ。炊き込みご飯にソースをかけた栗原家の「炊き込みごはんのドリア」といったユニークなレシピも家庭料理としてリアルで、栗原家の食卓に親近感を抱く。読み手も、昔よく食べた「我が家だけの不思議メニュー」を思い出すのではないだろうか。

栗原家のごはん 祖母から母に、母から僕に、そして僕から息子へ。P39

 料理家や経営者として大事にしている思いもエッセイでは語られる。著者曰く、自分は「プロの料理人ではなく、家庭料理を考える人」。そして家庭料理で一番大事なのは、相手のことを慮ることだという。思えば栗原家の人々が考えるレシピは、常に食べる相手のことが深く考えられている。本書のレシピも、栄養たっぷりでおいしい家族が喜ぶ料理ばかりだ。本書を読むと、家族と食を愛する栗原家で育った栗原心平氏の料理が、これほどまで広く受け入れられ、さまざまな家族の日常に溶け込んでいる理由がよくわかる。同時に、家族を幸せにするという家庭料理の原点と、食の力をこの本は教えてくれる。本書のレシピから、自分の家庭の定番になる料理を見つけてみてはいかがだろうか。

文=川辺美希 撮影=寺澤太郎

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