妻との思い出を噛み締め…。完成から10年、東京スカイツリーを舞台にした感動の実話集

暮らし

更新日:2022/1/27

東京スカイツリーで本当にあった心温まる物語
『東京スカイツリーで本当にあった心温まる物語』(東京スカイツリー スタッフ一同:編集、須山奈津希:イラスト/あさ出版)

 2012年2月29日に完成し、10周年を迎える東京スカイツリー。約4年の期間を費やし造られた634メートルのタワーは、都内を一望できるランドマークとして今なおたくさんの人びとを迎え入れている。

 2021年12月27日の発表では、2012年5月22日の開業から約9年7カ月で来場者数が累計4000万人を突破。老若男女が訪れるスカイツリーには数々のドラマもあった。現場のスタッフたちの記憶をつむいだ書籍『東京スカイツリーで本当にあった心温まる物語』(東京スカイツリー スタッフ一同:編集、須山奈津希:イラスト/あさ出版)は、そうしたエピソードの数々を優しいタッチのイラストともに伝える一冊。その中から、2つのエピソードを紹介していこう。

東京スカイツリーで本当にあった心温まる物語 44-45p
イラスト:須山奈津希

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亡き妻との思い出を胸に訪れた1人の男性

 東京スカイツリーには2つの展望台がある。地上から350メートルの展望デッキと450メートルの天望回廊だ。そこで案内をするスタッフのもとには、たびたび客からの手紙が届く。ある日、届いたのは1通の厚めの封書。60代男性から送られた封筒の中には、ハロウィンの時期に撮影されたトンガリ帽子を被ったスタッフとのツーショット写真と、手紙が添えられていた。

 その手紙には、男性が亡くなった妻と一緒に訪れた旅先をもう一度巡っていること。東京スカイツリーもその一つで、夫婦で見た展望台からの景色が忘れられず再訪したこと。そして、当時対応してくれたスタッフが親切で、元気だった妻の姿を思い出したことが書かれていた。

 男性を接客したスタッフも、当時をよく覚えていた。青空が映える秋の昼どき、一人っきりで窓の外を眺めていた男性について「とても穏やかなお顔をされていました」と印象を伝えるスタッフ。「包み込むようにして手に持ったお写真に、何か話しかけていらっしゃる横顔がなんとも優しげで、つい見入ってしまっていたら、目が合って…」と、会話した当時の状況を語った。

 手紙に「妻と来た日のことを思い出し、ちょっと感傷的になっていたとき、笑いかけてくれて、なんだかホッとしました」と思いを込めた男性は、「温かい対応のおかげで、妻との思い出をたどることができました。また、妻と一緒に行きたいと思います」と感謝を述べていた。

 この男性のように、東京スカイツリーの展望台では「遺影を手にされたお客さまをお見かけすることもある」そうだ。大切な人と別れた悲しみを癒すにはプロセスがある。そうした人びとに対して「お客さまは、どうされたいのか」と考え、一人ひとりに「寄り添ったおもてなし」をするのが来場者を迎え入れるスタッフたちの役割だという。

東京スカイツリーで本当にあった心温まる物語 177p
イラスト:須山奈津希

東京スカイツリーで本当にあった心温まる物語 204p
イラスト:須山奈津希

天望回廊を行き来していた男性。その理由とは…

 とある火曜日。展望台の営業終了間際に「もう間もなく営業終了となります。どうぞお気をつけてお帰りください」と来場者に声をかけるスタッフは、天望回廊のスロープを行き来する男性2人組を見かけた。夜景に目もくれず何かを探している様子の男性たちにスタッフは「何かお探しですか?」と声をかけた。

 男性の1人は「スカイツリーでプロポーズをしたいと思っていて。今日はその下見に来たんです。どこでどんなふうにするのがいいのか……」「何かいい方法はないですか?」と問いかけた。

 なぜ、男性は東京スカイツリーでのプロポーズを考えたのか。スタッフがその理由を尋ねると、千葉県に住んでいると語った男性は「(自分の住む場所からも)スカイツリーは見えるんですよ」「東京だったら、もっとどこからでも見える。そしたら、スカイツリーを見るたびに、プロポーズの日のことを思い出せます。その気持ちを、一生大切にしたいなって」と答えた。

 その日から5日後。男性は、話を聞いてくれたスタッフのもとをふたたび訪ねた。手元には、100本にもなる大きなバラの花束が。東京タワーや六本木周辺の夜景がよく見える位置でのプロポーズを決めた男性に対して、スタッフは「ベストポジションですね!」と励ました。

 共に下見をしていた友人の力も借り、プロポーズ本番を迎えた男性。立てひざをついてスッと花束を差し出した男性に対して、彼女は涙を拭いながら「ありがとう!」と一言つぶやいた。

 人びとが多く行き交う場所では、その数だけドラマが生まれる。東京スカイツリーも立役者のひとつ。東京を見下ろすランドマークでは、今日もまた、新たなドラマが生まれているのだろう。

文=カネコシュウヘイ

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