レディー・ガガ主演映画の原作本! GUCCIを創業した一族の骨肉の争い。愛憎、嫉妬、強欲が渦巻く人間ドラマ『ハウス・オブ・グッチ』

文芸・カルチャー

更新日:2022/1/19

ハウス・オブ・グッチ
『ハウス・オブ・グッチ』(サラ・ゲイ・フォーデン:著、実川元子:訳/早川書房)

 1月14日、映画『ハウス・オブ・グッチ』が公開された。リドリー・スコット監督による本作は、イタリアのファッションブランドGUCCIを創業した一族の骨肉の争いを描いており、欲望むき出しの主人公を演じるレディー・ガガの好演もあって注目を集めている。

 本書『ハウス・オブ・グッチ』(サラ・ゲイ・フォーデン:著、実川元子:訳/早川書房)はその原作本である。著者のサラ・ゲイ・フォーデンはイタリアに長く在住したジャーナリストで、彼女は10年以上をかけて当事者たちに取材し、『THE HOUSE OF GUCCI』を書き上げた。

 GUCCIの始まりは1921年にフィレンツェに設立された小さな鞄屋だった。創業者のグッチオ・グッチが作る質のいい鞄は多くの顧客を獲得したが、もしも彼にアルドという息子がいなければ、GUCCIはフィレンツェの鞄屋で終わっていただろう。

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 進取の精神に富み、商才に長けたアルドは、ローマ店をかわきりに、ニューヨーク、ロンドン、パリと次々に支店を開いて成功させた。扱う商品も鞄、靴、服、香水、アクセサリーと種類を増やし、戦後の20年間でGUCCIを世界的ブランドへと大成長させたのである。

 巨大企業となったGUCCIの経営陣は全てグッチ家の親族で固められていた。グッチ帝国の面々は自家のブランドを愛し、結束が固い一方で争いも起きた。グッチオの孫の代になると、会社の指揮権を奪い合い、警察や司法を巻き込んで、争いは泥沼化した。

 事実に基づいたノンフィクションであり、企業の栄枯盛衰をテーマにしたビジネス書でありながら、愛憎、嫉妬、強欲が渦巻く人間ドラマの面白さは『ゴッドファーザー』を凌ぐと言っても過言ではない。

 親族との争いに勝利し、三代目社長の座に就いたのはグッチオの四男ロドルフォの一人息子、マウリツィオ。しかし、天下は長くは続かなかった。莫大な個人負債のために会社を手放すはめになったのである。そしてさらなる悲劇がマウリツィオを待っていた。

 1995年3月27日月曜日の朝、ミラノのパレストロ通りにある事務所に入ろうとしたマウリツィオは何者かに銃殺された。手口から、プロの殺し屋と推定されたが、捜査は暗礁に乗り上げた。解決の糸口は一本の通報だった。マウリツィオの元妻、パトリツィアが友人と謀って、マウリツィオを殺害し、自分の娘が相続すべき莫大な遺産を手に入れたというのである。容疑が固まってパトリツィアは逮捕され、裁判にかけられた。果たして真実は――。

 19世紀の産業革命以来、世界は資本主義の無限拡張運動によって経済発展を続けてきた。しかし今、環境破壊、格差の拡大、中間層の没落などその限界が見えつつある。資本主義の原動力は他でもない、人間の欲望である。人間の欲望とは何なのか、その行き着く先は何処なのか。その答えがこの本の中にある。

文=緒形圭子

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