「同じ顔」と「牛の首」の恐怖とは?「牛首村〈小説版〉」は少女が自らのルーツと恐怖に立ち向かう物語

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/22

牛首村〈小説版〉
『牛首村〈小説版〉』(久田樹生:著、保坂大輔・清水崇:脚本/竹書房)

「“牛の首”……って知っとる? この世で一番、おっとろしい怪談話……聞いた人全員が呪われて死んどるんだって」

 無邪気な女子高校生たちがこんな会話をしながら訪れた、実在する北陸最凶の心霊スポト「坪野鉱泉」。そこでの彼女たちの行動が眠っていた“恐怖”を蘇らせた……?

 本書、『牛首村(うしくびむら)〈小説版〉』(久田樹生:著、保坂大輔・清水崇:脚本/竹書房)は、ホラー界の巨匠・清水崇監督の映画『牛首村』のノベライズ。『犬鳴村』(2020)、『樹海村』(2021)に続く恐怖の村シリーズの第3弾で、前作、前々作と同様、実話怪談の旗手・久田樹生氏が小説化を手掛けた。2月18日(金)の公開に先がけて、この「小説版」を紹介しよう。

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キーワードは「同じ顔」と「牛の首」。少女は自らのルーツと恐怖に立ち向かう

 雨宮奏音(あまみや かのん)は東京に住む、音楽好きの女子高校生。ある日クラスメイトの香月蓮(こうづき れん)に、ある動画を見せられ驚愕する。富山県の心霊スポット「坪野鉱泉」から配信されたその映像に映っていた女子高校生のひとりが、奏音とうりふたつだったからだ。

 その「シオン」と呼ばれた少女は、動画の中で“牛首”のマスクを無理やり被らされ、廃墟の中に閉じ込められるように画面から消えた。彼女はその配信以降、行方不明だという……。

 奏音は直感というか、本能というか……インスピレーションを受け、シオンと会うことを決意する。彼女自身にも分からないが、そうすべきだと感じたのだ。そうして奏音は夜行バスで富山へ向かう。

 何かに導かれるよう向かった北陸の地で彼女を待ちうけていたのは、失われていた過去の記憶、そして「牛首村」と呼ばれる恐ろしい場所の秘密と、残酷で狂気を感じさせるような風習だった……。

 古来より続く、想像を絶する恐怖が奏音に忍び寄り、まとわりついていくのだ。

映画に先がけて現実が交錯する恐怖を楽しめる『牛首村〈小説版〉』

 本作のキーワードである「牛首」は富山と石川の県境にある実在の心霊スポット「牛首トンネル」に由来する。トンネル内で男性が焼身自殺をして、さらにその母親が息子を追ってトンネル近くで首吊り自殺したというウワサがささやかれ、多くの心霊現象が報告されているのだという。また、トンネル内に安置されている地蔵は複数回にわたり首が破壊され、持ち去られている――。このエピソードは本作のストーリーにも関わってくるので注目してほしい。

 そして「坪野鉱泉」。富山県魚津市・史跡「坪野城址」の裏に位置する温泉旅館だった廃墟で、北陸一の心霊スポットとも称されている。プールで男児が水死……オーナーがボイラー室で首吊り……建物内に霊が見えた……などのウワサがたち、あるTV番組で某有名霊能力者が訪れたものの、入るのを拒否したほどの“ガチ”な場所、なのだ。肝試しや、それこそ動画配信をするには危なすぎる……。

 映画『牛首村』は恐怖エンタメとしては“間違いない”。直接的な映像での迫力の凄さはきっとえげつないだろう。

 ただ『牛首村〈小説版〉』をつい夜に読んでしまったところ、作中で描かれる“吐き気をもよおす異臭”を感じ、背筋が冷たくなったことを告白する。

 現実に存在する場所を舞台に設定し、実際に起きている心霊現象がフックとなり、ラストはカタルシスが訪れ恐怖の余韻が残る……。文章ならではのリアルに想像させる恐ろしさを、ぜひ楽しんでほしい。

文=古林恭

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