“わたしの体はわたしのもの” 体型への偏見なんて吹き飛ばせ! 気鋭の批評家が綴る不屈のユーモアと怒りの半生記

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/21

わたしの体に呪いをかけるな
『わたしの体に呪いをかけるな』(リンディ・ウェスト:著、金井真弓:訳/双葉社)

「もっと痩せなくては、きっと誰にも認めてもらえない。」そんな風に自分を追い詰めている女性が多いように思える。人にはそれぞれの美しさがある。体型に対する社会の偏見なんて笑い飛ばせばいい。もっと伸び伸びと自分らしく生きられるはずなのにどうしてこの社会はこうも生きづらいのだろうか。

『わたしの体に呪いをかけるな』(リンディ・ウェスト:著、金井真弓:訳/双葉社)は、気鋭の批評家のリンディ・ウェストが自らの体験をもとに綴ったエッセイであり“フェミニズム戦記”。リンディは幼い頃からたくさんの差別を受けてきた。体形へ向けられる偏見。性的消費の視線。善意のふりしたミソジニー。ジョークの皮をかぶった性暴力。あの手この手で「おまえは不完全な存在だ」と刷り込み、制御しようとする社会のありよう…。そんな日々を生き抜いてきたリンディの痛快な言葉には私たちを勇気づける力がある。

 リンディは生まれた時から医学的に異常を疑われるほど体が大きく、成長過程でそれを自覚するごとに、自信を失っていったのだという。彼女は幼い頃、「大人になったら何になりたい?」という質問に答えられなかった。『不思議の国のアリス』のハートの女王、『リトル・マーメイド』の海の魔女アースラ、『ロビン・フッド』に登場する雌鶏レディ・クラック…。太った女性たちのキャラクターは、性的魅力がない母親だったり、哀れなジョークのオチにされたり、恐ろしい悪人にされたりしていた。8歳になるまで人前では母親としか話さず、話すときでも蚊の鳴くような声。リンディはファンタジー小説や映画やコンピューターゲームの世界に引きこもりながら過ごしていたのだそうだ。

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 だけれども、時を経るごとに彼女は変わっていく。大人になり、やがてありのままの自分を愛せるようになっていったのだ。だが、ジャーナリストとして自分の声を発するようになったリンディをインターネットでの誹謗中傷が襲う。それでも、彼女は決して負けなかった。どこまでも闘い続けたのだ。

 これがわたしの体だ。これがわたし自身なのだ。とにかく、自分のことを恥ずかしいとは思っていない。それどころか、自分のどこもかしこも愛しているのだ。

 リンディの半生は苦難の連続だ。しかし、彼女はそれを、時にシニカルに、時にユーモアを交えて描き出していく。その裏にある激しい怒り。その思いにどうして共感せずにいられるだろうか。

 他人から傷つけられた痛みは決して消えることはない。だけれども、どんな侮蔑も偏見も笑い飛ばし、「間違っている」と主張し続けるリンディの姿をみていると、自分もクヨクヨせずに、しっかり前を向こうと思えてくる。なんだか気持ちがラクになる。生きづらい時代の中、図太くたくましく生きるための勇気をもらえる一冊。

文=アサトーミナミ

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