僕のスマホに宿った“彼女”と恋をした――恋と勇気とサーフィンの、奇跡のラブストーリー

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/25

世界一ブルーなグッドエンドを君に
『世界一ブルーなグッドエンドを君に』(喜友名トト/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 サーファーとしての道を断念し、たんたんとした日々を送る大学生・結城湊(ゆうきみなと)。ある日、彼のスマートフォンに“すず”という女の子の魂が宿る。記憶を失い、自分が何者なのかも分からないすずだが、たったひとつだけ憶えていることがあった。それは、湊をずっと好きだったということ。すずと共に過ごすうちに湊の胸に、サーフィンへの思いが再燃してくる――。

『僕は僕の書いた小説を知らない』(双葉文庫)、『どうか、彼女が死にますように』(メディアワークス文庫)など、みずみずしいタッチと繊細なストーリーで若者層から大きく支持されている青春小説の気鋭、喜友名トトさん。待望の新作『世界一ブルーなグッドエンドを君に』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)が現在評判を呼んでいる。

 主人公の湊は、夢を諦めた青年だ。かつては天才サーファーとして将来を嘱望されたものの、2年前、怪我によって引退を余儀なくされた。現在は大学とアルバイト先を往復する、静かな日々を送っている。そんな湊の携帯電話の表示画面に、突如として少女・すずが現れる。

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 いったい彼女は何者なのか。アバターか? AIか? 否。紛れもなく生身の人間の魂が、なぜか湊のスマートフォンに入り込んでしまったのだ。すずの登場によって、平坦だった湊の日常はかき乱されてゆく。

 男女の同居を扱った作品は世の中に数あれど、片方がスマホに宿ってしまうという点が、なんとも目新しい。非現実的なこの状況に戸惑いを隠せない湊とは対照的に、すずは屈託なく彼に接してくる。「湊くんが好き」と自分の想いをまっすぐ伝え、湊の心の奥にくすぶっていたサーフィンへの未練も鋭く見抜く。

 すずは湊に語る。自分はサーフィンのことは知らない、だけど、勇気を出せなかったせいで大好きを失くした後悔は知っている気がする、と。

 その言葉は湊の背中を押して、サーフィンをやろうという気持ちを取り戻させてくれる。

 一生を懸けられるほどのものを見つけて、それを失ってしまうのは、どんなに苦しいことだろう。そして、その失ったものと再び向きあうのは、どんなに勇気がいるだろう。

 勇気。これは本作の軸となるキーワードだ(湊の名字にも注目してほしい)。

 湊だけでなく、すずもまた、かつて勇気を出せなかったために深く後悔した思いを抱いていることが、やがて明らかになる。そんなすずの苦しさに気づいた湊は、彼女をスマホから解放するために自分の最高のパフォーマンスを見せようと、サーフィン大会への出場を目指す。

 共同生活を通して近しくなってゆく2人の心情が微笑ましくも細やかに描かれて、作中のサーフィンの描写も詳細だ。舞台となる湘南界隈の海辺の情景、広い空と青い海のすがすがしさも鮮やかに伝わってくる。

 サーフィン大会の決勝戦と並行して、すずの悲しい秘密が明らかになる終盤で、物語は最高潮の波を迎える。切なくもさわやかで、読む人すべての胸を浄化するようなグッドエンドに、拍手を送りたい。

文=皆川ちか

■世界一ブルーなグッドエンドを君に
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