『他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え』の真意は? 酒場のオッサンたちの口から飛び出す200の人生訓が沁みる!

ビジネス

公開日:2022/1/26

他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え
『他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え』(裏モノJAPAN編集部/鉄人社)

 書店に並ぶ偉人たちの名言集には、さまざまな大人物たちの金言が綴られている。それを読めば、なるほど、と膝を打つ言葉もたくさんあるけれど、同時に「でも、この人は成功してるし、自分とは違う世界の人だよな」と、冷めた気持ちで本を閉じてしまった経験はないだろうか。

 そんなあなたに手にとってほしいのが『他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え』(鉄人社)だ。大きなザトウクジラとビールのイラスト、長めのタイトルの装丁が目を引く同書は、世間の裏側をあぶりだす月刊誌『裏モノJAPAN』に掲載されている「タイムマシンに乗って若かりし自分に教えてやりたい、人生の真実とは?」という不定期連載を書籍化したもの。この連載は、裏モノJAPAN編集部員が、上野や赤羽の立ち飲み屋、大阪、名古屋の酒場に足を運び、店で管を巻くオッサンたちに「タイムマシンに乗って若かりし自分に教えてやりたい、人生の真実とは?」という質問を投げかけて返ってきた答えと、その言葉の真意を紹介するミニコラムだ。

 そのため、同書に掲載されているのは、ごくフツーのオッサン200人が語った人生訓だ。書籍冒頭の「まえがき」には、以下のような但し書きがある。

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「正直、高尚なものは一つもない。大半は下世話で、みっともなく、愚痴や後悔にまみれている。しかし、一つ確実に言えるのは、酸いも甘いも噛み分けてきたからこそ出てくる言葉は、とてつもなくリアルで説得力を持っているという事実だ。
 市井のオッサンたち200人が心の底から語る人生の教え。一見、何の役に立ちそうもない言葉に、あなたは目からウロコを落とすかもしれない」

 そう、この本の魅力は圧倒的な親近感とリアルさ。読んでいる最中も「もしかしたら、このオッサンは自分なのかもしれない……」と、不思議な共感すら覚えてしまいそうになる。そこで同書のなかから、人によってはためになるかもしれない人生訓のひとつをご紹介しよう。

 若いころの苦労は将来に役立つわけではない(46才/東京・会社員)

“若いころの苦労は買ってでもしろ”なんて言葉があるが、その正反対をいく教えだ。なんでも、この男性が最初に就職した不動産関係の会社は、社員に毎月さばききれないほどのノルマを課し、達成できなければ平気で殴り、給料もカットする……いわゆる「ブラック企業」だったという。

 しかし社長は「若いころの苦労は必ず将来に役立つ」が口癖で、そう言って部下たちを鼓舞した。彼もその言葉を真に受け、仕事を“がんばりすぎてしまった”と振り返る。その結果、メンタルと体を壊してしまい、4年目で退職。8年ものあいだ、働ける状態になかったという。

「結局、会社が言う苦労なんてのは、下っ端連中につらい仕事を押し付けたり、安い給料でこき使うための都合のいい文句に過ぎないってこと。そんな苦労はしないに限るよね。」

 なんとも実感のこもった言葉だ。彼の言う通り、苦労に苦労を重ねて自分が折れてしまえば元も子もないだろう。この世には、買ってでもしなければならない苦労など、ほとんど存在していないのかもしれない。

 このほかにも、仕事や人生、リスク管理、際どいエロネタなど、多種多様なジャンルの名言・迷言が登場する。以下はその一部だ。

「人生は80年もない。30年でほぼ終わってる」
「深夜にタクシーが捕まらないときはコンビニにタムロってる若者が送ってくれる」
「失敗は成功のもとではない。失敗のもとである」
「自分のことが嫌いな人だけが結婚に向いてる」
「折り畳み傘を常にカバンに入れておけばストレスが急に減る」

 どれも、言葉の裏にある真意が気になるものばかり。そして、数ある人生訓のなかでも筆者のお気に入りは、表題になっている「他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え」だった。中年の独身男性が、強烈な孤独に襲われて入店した松屋である“悟り”を得た、というエピソードが掲載されている。孤独を埋めてくれるのは身近な人とは限らない。松屋で同席した見知らぬ客が孤独を癒やしてくれることもあるのか……という、新たな気づきを得ることができた。が、そこまで大げさな話でもないのかもしれない。

 なにより、中年男性の哀愁漂う背中と、松屋の店内の情景が浮かぶ切ない読後感は、この本でしか味わえそうにない。オッサンになった人はもちろん、これからオッサンになる人にも、ぜひ読んでもらいたい一冊だ。

文=フクロウ太郎

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