愛妻を守るためのヒーロー・オットマン参上! 人は誰のため、何のために戦うのか──?

マンガ

公開日:2022/3/6

オットマン―OTTOMAN― 1
『オットマン―OTTOMAN― 1』(金沢真之介/集英社)

 ヒーローものの定番設定としては、世界を混乱に陥れる「巨悪」に対し、彼らに対抗しうる力を手に入れた主人公が立ち向かうというものだろう。そこにあるのは非常にマクロな視点であり、人類全体とはいわないまでも、割と大勢の人々を守るケースが多い。そして大抵の場合、敵はなぜか主人公の存在する地域をめがけて出現し、粉砕されるのだ。まあ裏設定で世界各国に出現していることもあるが、それでも最終的に主人公が敵を倒すことで解決することになる。だが普通に考えれば、身ひとつで大勢の人々を救うのは難しいだろう。せいぜい大切な人々を含めたご近所を守るのが精一杯のはず。『オットマン―OTTOMAN― 1』(金沢真之介/集英社)は、愛する妻を守るためだけに全力を尽くすヒーローの姿を描いた作品だ。

 主人公・五味想也の住む世界には、密かに人類を狙う異星人が侵入していた。異星人たちは巧妙に犯罪を繰り返し、地球人類を捕食していたのである。漫画家になりたかった想也は意に沿わぬ仕事に就いて日々消耗していたが、愛する妻・優花に癒されることでその辛さを乗り越えていた。しかしある日、優花に異星人の魔の手が伸びる。それを知らずに帰途につく想也だったが、不慮の事故により瀕死の重傷を負ってしまうのであった。

 死にかけの想也を救ったのは、地球に来たばかりの謎の異星人だった。彼が憑依したことでダメージを負った肉体は回復し、想也は驚異的な身体能力を得る。その力で家に戻った想也が目にしたのは、犯罪異星人に襲われ足を食いちぎられた優花の姿だった。妻を救うため、想也は彼を救った異星人に体を貸すことを決断。憑依ではなく異星人と一体化し、想也の体は「変身」する。「プラスの感情」がエネルギー源という異星人にとって、想也の妻に対する愛情はまさに最適解であり、優花への愛によって放たれた「愛パンチ」は犯罪異星人を一撃で粉砕する──。

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 本作は、妻を救うため異星人と一体化し「オットマン」となった想也が、「EBA(イーバ)」と呼ばれる犯罪異星人たちと戦うヒーローアクション漫画である。変身した後、想也は「地球防衛軍」と名乗る組織に連行され、そこでEBAの存在や優花が異星の菌に感染して命の危険があることなどを知る。感染症の調査には多くのサンプルが必須であり、彼は妻を治療するため自分と一体化した異星人「ギブラ」と共に、地球防衛軍へ参加することに。

 ポイントとなるのは、想也の行動原理があくまで「愛妻である優花のため」だということ。感染症が進行すれば優花はEBA化してしまい、駆除の対象になってしまう。そしてもし地球防衛軍が優花を駆除しようとした場合、想也は迷うことなく妻を守るため防衛軍と戦うだろう。この作品では「全人類のため」などという綺麗事ではなく、あくまで「最愛の人を守る」といういわば「等身大」のヒーローが描かれている。最愛の人を守るために日々、頑張る──よく考えれば、これは普通の家庭で日常に行なわれていることではないか。そういう意味では、守るべきもののある人たちは皆、ヒーローなのかもしれない。

文=木谷誠

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