震災が少しずつ過去になっていくからこそ読む、とある家族の物語

小説・エッセイ

公開日:2012/10/21

小説・震災後

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 小学館
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:福井晴敏 価格:637円

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あの3月11日の震災後、日本で、家庭レベルで何が起こっていたのか、をリアルに描いた作品。主人公野田は、きっと、どこにでも誰でもありうる東京の一サラリーマンの人生を送る日々。息子と娘、妻と自分の父親と同居生活している中で、震災に見舞われます。

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まさに、あの日誰もが感じていた恐怖。家族と連絡の取れない不安。帰宅までの道のり。日常だった風景が突然非日常に変わる瞬間、一人の男は何を考え、何に怯え、何を成し遂げようとするのか。そして、元防衛庁に務めていた高齢の父に、震災以来、頻繁にかかってくる電話…。と物語は、この高齢の父親のエピソードをスパイシーにちりばめながら、進んでゆきます。

登場人物たちの会話は、まさにあの当時、どこの家でも繰り返されていたであろう内容。原発は大丈夫なのか。もし万が一のときには、家はどうなるのか。そして、震災後心を病んでしまった長男とのうまく繋がらない心をきっかけに、被災地にボランティアへ一家で出かけてゆく。

ひとりの男性が、「家族のため」「社会のため」と働き尽くめに働いてきて、その価値観が震災によって大きな疑問視に晒されてしまう。その不条理と焦燥感に共感を覚える読者も多いのではないでしょうか。

家族の絆が深まる一方で、子供たちの不安定な心の問題も、ひいては子供を導いてゆかなければならない、親の心の問題にも、物語は主に登場人物たちの会話を借りてずんずんと奥に迫ってゆきます。読み出せば、誰もが自分の姿を重ねることができるはず。震災が少しずつ過去になってゆく毎日の中、こうした物語で、フィードバックする作業は、心と頭の浄化に有効かもしれません。


震災は大黒柱の野田だけではなく、息子の弘人の心にも深く突き刺さっていて

震災で、絆も溝も同じぐらい深まってしまう野田家

そして同居する父の勧めで一家は被災地のボランティアへ