人気俳優だった双子の弟が自殺…「生きること」と「死を受けとめること」の意味を問う、世界各国を旅する感動のロードノベル

文芸・カルチャー

公開日:2022/2/4

世界の美しさを思い知れ
『世界の美しさを思い知れ』(額賀澪/双葉社)

 大切な人の突然の死を、遺された者たちはどう受け入れたらいいのだろう。そこには悲しみ以上に困惑がある。憤りさえある。ましてやその人が自ら命を絶ったとなれば、ますます気持ちの整理はつかないだろう。

『世界の美しさを思い知れ』(額賀澪/双葉社)は、「生きること」と「死を受けとめること」の意味を問う感動のロードノベル。この作品は、まるで映画のようだ。突然自殺した弟。その死の理由を求めて世界各国を旅する男の物語を読んでいると、自分も一緒に「服喪の旅」をしているような感覚にどっぷり浸かり込んでしまうのだ。

 物語は、28歳の人気俳優・蓮見尚斗が自殺したという速報記事から始まる。主人公は、その俳優の双子の兄・蓮見貴斗だ。遺書も残さずに自殺した弟の死を受け入れられずにいる彼は、葬儀を終えた数日後、弟が遺したスマホの顔認証を、瓜二つの顔で突破してしまう。そのスマホに届いていたのは、生前、弟が予約していた礼文島旅行の出発日を告げるリマインドメール。自ら死を選んだはずの弟が、どうして旅行なんて計画していたのだろう。貴斗はその答えを求めて旅に出ることになる。そして、さらには、弟の痕跡を求めて世界各国をさまようことになるのだ。

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 礼文島のウニ丼、マルタのフィリグリー細工、台中の高美湿地、ロンドンのポートベロー・マーケット、弟の元カノとさまようニューヨークのタイムズスクエア…。弟の痕跡を探し続ける貴斗の旅はどこか危うくてハラハラさせられっぱなしだ。だが、こんなにも悲しい旅が他にあるだろうか。どうして弟は自ら死を選んだのか。貴斗はその理由を探し続けるが、その答えは永遠に見つからないのだ。貴斗と尚斗は一卵性双生児で誰よりも似ているはずだし、誰よりも理解し合えているはずだった。答えなど見つからないのに、弟の死の理由を知りたいとあがき続ける貴斗。片割れを失った貴斗の悲痛な叫び声が聞こえてくるかのようだ。

 そんな貴斗の慟哭に、世界各国の美しい風景が重ねられていく。眼前に思い浮かんだその光景に気が付けば涙があふれてしまったのは私だけではないだろう。弟の死の理由は永遠にわからない。だが、貴斗は次第に気付かされていくのだ。世界には、弟が見られなかった美しい場所がまだまだ他にもあるのだということ。そして、弟が存在した証となるすべてを、貴斗は愛おしく思い始めていく。

 悲しみは消えない。心はきっと永遠に困惑したままだ。だけれども、遺された者は生きなければならない。立派に生きなければならない。切なくも寂しいラストも圧巻。この本を読むと、「生きること」、そして、「死を受けとめること」の意味が見えてくる。どこまでも余韻に浸りたくなってしまう感動の一冊を、ぜひともあなたも手にとってみてほしい。大切な人を失った経験がある人は、この本に救われるに違いないし、経験がないという人もこの作品に強く惹きつけられるに違いないだろう。

文=アサトーミナミ

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