18歳差の恋と、クズ夫、そして仕事。ドラマも放送中、40歳の人生をリアルに描く『シジュウカラ』が面白い!

マンガ

公開日:2022/2/18

シジュウカラ
『シジュウカラ』(坂井恵理/双葉社)

※本記事には作品の内容が含まれます。ご了承の上、お読みください。

 シジュウカラ=40歳からの女の人生を描くマンガ『シジュウカラ』。子育て中に不倫した夫との、かみ合わない日常。そこに突然舞い降りた、漫画家としての再起のチャンス。そして18歳年下の青年との出会いに、不倫劇……物語は幾度も予期せぬ方向へ転がっていき、ただの“不倫もの”に収まらない作品です。現在、テレビ東京系列でドラマも放送中。そんな“不倫×サスペンス”と言われる本作の、ドラマと原作のマンガそれぞれの魅力に迫ります。

大九明子監督と役者たちが映像で伝える、ときめきと闇

 ドラマ版の監督を務めるのが、大九明子。これまで『私をくいとめて』などで女性主人公の感情をときに激しく、独特の映像表現や音の演出で描き、注目を集めています。山口紗弥加が演じる主人公・綿貫忍は、担当編集に「いつもリアクション薄めですね」と言われるほど、一見物静か。しかし突然ノリノリで歌い出すなどお茶目な仕草を見せたり、夫の不倫を友達に打ち明ける際に不穏な大笑いしたりなど、ギャップのある人物でもあります。その奥行きのある人物造型は、さすが山口紗弥加。セリフやモノローグでの心情描写は少なく、演技や演出で忍の感情が表現される、“目が離せない”型の主人公です。

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 そして忍のもとに漫画アシスタント希望者として現れるのが、橘千秋(板垣李光人)。いくつもの秘密を抱えた人物です。特に序盤は、忍を誘惑する彼の一挙手一投足が、ドキドキもするけどなんだか怖い。そんなミステリアスな千秋にハマった人も多いのではないでしょうか。中でも印象深かったのが、1話で忍から「夫の“ハートにファイア”を歌う姿にときめいた」と聞いたときに「何その古くさいタイトル」と大笑いしたかと思えば、突然「旦那さんよりかっこよく歌いますよ」と迫るシーン。年下のかわいらしさと、そこから突然男を感じさせてくるギャップ。その上で本当は何を考えているかわからない恐ろしさ……など、たった一瞬でこちらの感情を揺さぶるこのシーンは、雨の演出や板垣の演技力によって、原作の良さを何倍にも色濃く表現するものでした。

 ドラマの5話では、千秋が秘密をすべて打ち明け、忍もそれを受け入れました。「愛とか恋とか全然わかんないんですよ」と言う千秋ですが、忍は千秋にとって唯一心を開ける存在になったようです。また、同じく5話には、本作屈指と思われる「キュンシーン」も。「ささいな行動をこんなにもときめくシーンに変えられるのか」といつも唸らされる、大九明子演出ならではのキュンシーンが、これからさらに観られるのではと楽しみです。

よりリアルな描写で、愛、夫婦、“人と寄り添うこと”に踏み込む原作

 一方、原作の忍は、連載が決まればスーパーでも万歳してしまうし、モノローグも多い人物。その内容も、例えば千秋と出かけるための服を選びながら「おばさんと思われたくないけど、張り切っているとも思われたくない」など、随所で自分がおばさんであることを必要以上に自認するのが、かなりリアルです。またスタイルもマンガの主人公らしからぬリアルさで、こちらは自分を投影しながら物語に没入できる、“共感”型主人公と言えます。

 そのリアルさは忍だけでなく、作品全体にも貫かれています。例えば忍の夫・洋平の、忍が家事をしているときはいつもソファでくつろいでいる姿も、ダメ夫あるある。さらに、忍にかける「もうおばさんなんだからさ」等々の、“お前は価値が低い人間である”と殊更に強調する言葉のチョイスがリアルすぎて、物語の人物だとわかっているのに殴りかかりたくなります。そんな、“自分に自信がないからあえて妻を見下すことでマウントを取ろうとする”男を父親に持つ一方で、それを「そんなことしてたら、本当にお母さん帰ってこなくなるかもよ」とたしなめる息子というのも、印象的な構図です。そんな夫を許せず、時々離婚が頭にちらつきながらも、お金の問題でためらっては毎度「仕事頑張ろう」に落ち着く忍のモノローグには、共感する方も多いのでは。

 また、忍がときめきに溺れるだけでなく、相手より長く人生を生きてきた大人として千秋と向き合っているのも、本作の魅力です。千秋の過去についても、忍の発言がその過去をとらえ直すきっかけを作ります。千秋からの逃避行の誘いも、いったんは同調して思い出を作りながらも、しっかり現実を見据えて千秋に帰宅を促す。相手にときめく一方で、ときに大人として、息子を持つ母親の視点で、相手に接する。そんな年を重ね、経験を積んできたからこその人との向き合い方があることを、このマンガは示してくれています。それは忍と同世代の読者にとって、ただ若くてイケメンの男の子に好意を寄せられ続ける物語よりも、よっぽど嬉しいものではないでしょうか。

 原作は、現在既刊11巻。さらに予想しない展開へと移り変わりながら、誰かの心に寄り添うことの難しさを、変わらずシビアに描写し続けています。忍は再び誰かと寄り添いながら生きるのか、はたまたひとりで生きていく決断をするのか。今後の展開からも、目が離せません。

文=原智香

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