歴史好きも刀剣好きも楽しめる!『ヤヌス ~鬼の一族~』1巻は“海道一の弓取” 今川義元を護る鬼の“左文字”の物語

マンガ

公開日:2022/2/16

ヤヌス ~鬼の一族~
『ヤヌス ~鬼の一族~』(琥狗ハヤテ/芳文社)

 東海道一帯に大国を築いた戦国武将・今川義元。その傍らには巨躯の侍、鬼一左文字(きいち さもんじ)がいた――。

 源義経に武芸を教えたとされる、伝説の陰陽師・鬼一法眼(きいちほうげん)。その血を継ぐ者たちを描く戦国絵巻コミック『ヤヌス ~鬼の一族~』(琥狗ハヤテ/芳文社)の第一巻が発売された。

“海道一の弓取”今川義元が惚れこみ傍に置いた鬼の血を引く男

ヤヌス ~鬼の一族~

 今川義元といえば、現代の静岡県を中心にした地域である駿河国(するがのくに)および遠江国(とおとうみのくに)を治めた守護大名。都(京都)の公家文化を嗜み、政(まつりごと)や外交にも明るく、その領土は最大で、今の愛知県である三河国や尾張国の一部にまで及んだ。

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 また“海道一の弓取”ともいわれ、武芸にも秀でていた義元。その家臣である朝比奈の旗印のもと、鬼神の如き活躍をみせた雑兵がいた。その戦いぶりに見惚れた義元は、彼を直々に呼びつけて褒めたたえる。男は鬼一左文字と名乗り、自分の一族は山の民であり、その始祖は「鬼の血を継ぐ」鬼一法眼だと語った。

ヤヌス ~鬼の一族~

 鬼一法眼といえば、陰陽師であり、かの義経に武芸を授けたとされ、天狗だったとも伝えられていた。義元の家臣たちは荒唐無稽だと笑ったが、義元だけは真面目な顔で「面白い」といい、鬼の左文字を馬廻(うままわり)として召し抱える。馬廻とは大将の馬の周囲に付き添う護衛のこと。左文字はそれから10年にわたり、義元に影のようにつきしたがってきた。

ヤヌス ~鬼の一族~

 本作は義元を非常に器が大きく、知的な大名として描いている。今川家の、骨肉の家督争いを平定して広大な領地をもつ大名となった義元だが、家臣たちへの情に厚く、からからと笑いおしゃべりだ。武骨で無口な左文字と対照的で、二人のやりとりは読んでいて非常に微笑ましい。

 ほのぼのとした雰囲気の裏で、歴史は不穏な方向へ動いていた。時は永禄3年5月(1560年6月)、今川義元は長きにわたって対立してきた織田氏が治める尾張国へ軍を進めていく。もちろん左文字を従えて。

 世にいう「桶狭間の合戦」が始まる。

 歴史にそれほど詳しくはなくても、戦国時代の転換点となったこの戦いのことは知っている人が多いだろう。合戦の結末が本作が史実通りなのかは、ここでは触れない。ぜひ実際に読んで確かめてみてほしい。なお本稿のライターは、義元と左文字の主従の絆に思わずぐっときて泣きそうになった。

義元に仕えた左文字、そして犬を育てる山楽。鬼一の血族の生き様を見逃すな

ヤヌス ~鬼の一族~

 鬼一左文字は架空の武士だ。しかし義元と左文字と聞けば、刀に詳しい人ならぴんときたかもしれない。「義元左文字」は今川義元のものとされる刀で、現存する国の重要文化財だ。左文字が、この名刀からイメージしたキャラクターなのは想像に難くない。「主君とともに戦った左文字」と考えると、かなりアツいのだ。

 本作は2022年2月時点で、鬼一山楽(きいち さんらく)の章に入っている。山楽は武芸はからっきしだが、犬の扱いのうまさを買われて仕官していた。今でいう犬の訓練士のような仕事だろう。ある日、山楽の主君の犬が巨大な黒い犬を産む。青風と名付けられたその子犬と、山楽の物語は始まったばかり。彼らは戦国の世で、一体どのような運命をたどるのだろうか。

 今までも動物、怪異、そして時代物を描いてきた琥狗氏の、美麗かつ艶やかな武士(もののふ)の世界をぜひご覧いただきたい。

文=古林恭

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