“子どもの自死”に真っ向から向き合う谷川俊太郎。絵本『ぼく』の制作過程に迫った「ETV特集」が話題に!

文芸・カルチャー

更新日:2022/2/16

ぼく
『ぼく』(作:谷川俊太郎、絵:合田里美/岩崎書店)

 2022年2月12日(土)、NHK Eテレの『ETV特集』で詩人・谷川俊太郎氏とイラストレーター・合田里美氏の手掛ける絵本の制作過程が紹介されていった。答えのない壮大なテーマに挑んだ彼らの強い思いに、視聴者から様々な反響が寄せられている。

「ぼくは しんだ じぶんで しんだ 谷川俊太郎と死の絵本」と題された今回の『ETV特集』。番組では、新たに生み出された一冊の絵本の背景に迫っていくことに。2022年1月20日(木)に発売された『ぼく』(岩崎書店)。谷川が“子どもの自死”といった難しいテーマに真っ向から立ち向かっていった一冊だ。

 本書誕生の立役者は、2人の編集者。東日本大震災をきっかけに“死”をテーマにした絵本シリーズを多く手掛けるようになったフリーの絵本編集者・筒井大介氏は、避けては通れない“子どもの自死”というテーマに向き合うにあたって、長年の盟友である絵本編集者・堀内日出登巳氏とタッグを組んだ。そして2人がオファーを出したのが、谷川氏である。

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 番組内で紹介された「ぼくはしんだ じぶんでしんだ ひとりでしんだ こわくなかった いたくなかった」という書き出し。なんと難しいテーマだろうか…。「読者に対して、すごく暗い深い現実に対抗できるような気持になってもらわないと、絵本出す意味はないだろうと思っていたから…」と語る谷川氏は、およそ2年に及ぶ制作期間の中で、イラストを担当した合田氏に何度も何度も描き直しを提案したという。

 ちなみに合田氏の打ち合わせメモには、谷川氏からの「世界の美しさ、残酷さを描く」「すごく明るい絵本にしたい」「主題歌を描くつもりで」といったリクエストが。また番組のインタビューの中では、合田が「こんなに何ページも描いてて、答えが出ないのもどうなんだろうと自分でも思うんですけど」などと漏らす一幕もあった。『ぼく』に携わった人々が導き出した結論。それはきっとそれぞれ違うものだったはずである。だからこそ制作に2年もの月日が費やされたのだろう。

 番組を見ていた視聴者からは、「谷川先生の言葉にひたすらしびれました」「すごく重いテーマだったけど、だからこそ『ぼく』を読んでみたいと思った。自分はどんな答えを導き出せるだろうか」「谷川さんの言葉のひとつひとつに心打たれました」「谷川さんの今は意味偏重の世の中だけど意味より大切なことは、何か存在することって言葉がすごく良かった」「携わっている方々に対する『スゴイ!』という感想しか思い浮かばない…。本当にスゴイ話だ!」などの感想が見受けられた。

 余談だが、谷川氏は後に合田氏に対して、「テーマがテーマだから、言葉、つまりテキストも無口でありたいし、絵も無口な絵が良いと思ってたんですよね。そういうのに合田さんが、すごくいい線いってたみたいな」といったコメントを寄せている。実は普段の彼は、作画に関してそこまで意見を言わないタイプだそうだ。そう考えると、絵本『ぼく』は、出会うべくして出会った人々によって生み出された作品なのでは…と思わずにはいられない。

 制作過程を知ることで、より深く作品を理解できることもあるだろう。興味のある人は、ぜひ本書を手に取ってみてはいかがだろうか。

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