モビルスーツ整備士と一般パイロットたち。戦場の脇役にスポットライトを当てたコミック『機動戦士ガンダムUC 『袖付き』の機付長は詩詠う』

マンガ

更新日:2022/3/1

機動戦士ガンダムUC 『袖付き』の機付長は詩詠う
『機動戦士ガンダムUC 『袖付き』の機付長は詩詠う』(白石琴似:漫画、関西リョウジ:構成・設定、矢立肇・富野由悠季:原案/KADOKAWA)

「ガンダムUC(ユニコーン、以下UC)」には多くの外伝コミックが存在するが、そのなかで戦場における「裏方」であるモビルスーツ(以下、MS)のメカニックマンにスポットを当てたコミックを紹介したい。

『機動戦士ガンダムUC 『袖付き』の機付長は詩詠う』(白石琴似:漫画、関西リョウジ:構成・設定、矢立肇・富野由悠季:原案/KADOKAWA)である。

 本作における「機付長」(きづきちょう)とは、特定のMSを専任で受け持つ整備責任者のこと。本作は「袖付き」と呼ばれるネオ・ジオン残党軍に所属する、MSの機付長とパイロットのコンビを描いたオムニバスドラマ。一般パイロットと、彼らが乗るMSの機付長とのやり取りを中心にしたストーリーが「UC」の物語に深みを持たせているのだ。

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登場するパイロットと専任メカニック・機付長たち

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 宇宙世紀0096年、のちに「ラプラス事変」と呼ばれる、地球連邦軍と「袖付き」との軍事衝突が発生。物語はそんな状況下の「袖付き」の旗艦「レウルーラ」艦内から始まる。女性整備士マヌエラは「一年戦争」時代からずっとジオンのMSを整備してきたベテランメカニックだ。

 彼女が担当するのは、“シャアの再来”と言われるフル・フロンタルの親衛隊に配属されたセルジ少尉の搭乗MS「AMS-129ギラ・ズール」。

 1話の冒頭では生真面目なセルジと、さばけていて肝っ玉母さん的なマヌエラとの“ほっこりとするひととき”が描かれるが、それはのちの残酷な結末を強調し、無慈悲な戦争の虚しさが浮き彫りに……。

 そしてこの2人のほか、さまざまな機付長とパイロットたちが登場する。

 MS「AMX-009 ドライセン」に乗り続ける強化人間のテルスとジェトロ。

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 水陸両用MS「AMX-129M ゼー・ズール」で地球に降下したアヴリルとペンプティ。

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 試作MS「YAMS-132 ローゼン・ズール」のテストを行うゼクストとスポッター。

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 MS「AMX-101E シュツルム・ガルス」で最終決戦に挑むビランチャとジューリ。

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 それぞれ、胸が締め付けられる悲しいエピソードや、戦場での心温まるドラマが紡がれていく。なお4話では、若かりしマヌエラの過去も描かれ、ジオンの盛衰とMS整備に人生を捧げた彼女の人生が垣間見えて感慨深い。

 物語は「UC」本編と同じ時系列で進み、鉱物資源衛星パラオ、オーストラリアのトリントン、そして“始まりと最終決戦の地”スペースコロニー・インダストリアル7へと舞台は移っていく。

 そして最終決戦を前に、マヌエラ、ジェトロ、スポッター、ジューリといった腕利きの機付長たちが集結し、「袖付き」を率いるフル・フロンタルの専用モビルアーマーのロールアウトを手掛けるのだった――。

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「UC」ファン垂涎のサイドスト―リー

 本作は「UC」のエピソードに寄り添うサイドストーリーとして、キャラクターのセリフや行動などから、「UC」本編のどのあたりの状況のエピソードなのかが理解できるようになっている。また、本編のメインキャラクターであるアンジェロ・ザウパーやマリーダ・クルス、そして地球での戦いで存在感を見せつけたヨンム・カークスやロニ・ガーベイなどが登場するのも見逃せない。

機動戦士ガンダム

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 さらに、同じく「UC」外伝作品で、本作同様に関西リョウジ氏が構成・設定を手掛けた『機動戦士ガンダムUC 星月の欠片』(KADOKAWA)と、一部エピソードやキャラクターがリンクしているので、こちらも読むとさらに楽しめる仕掛けになっている。

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 また、本作のパイロットたちのなかには、「UC」本編でいち兵士として出演している者もいるので、搭乗MSや時系列から、その場面を本編で確認してみてほしい。

 ガンダム作品の魅力のひとつに、裏方や脇役たちにもしっかりスポットを当て、新たな物語を形作る点があると思う。本作『機動戦士ガンダムUC 『袖付き』の機付長は詩詠う』は、そんな登場人物たちが、ガンダムという世界にさらなる説得力と奥行き、そして魅力を付け加えてくれるものだ。「ガンダムならでは」の作品と言えるのではないだろうか。

文=古林恭

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