物語から垣間見える居心地の悪い教室 

小説・エッセイ

2012/10/26

おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:村上凛 価格:463円

※最新の価格はストアでご確認ください。

現実の高校生活は、ライトノベルの中みたいに楽しいものでは絶対にない。ありえない。別に生徒会の女の子がみんな可愛いだとか、部活が魔法と科学の入り混じった素敵なものであったりとか、クラスに何人か宇宙人がいるだとかいう諸要素が、現実にないからではない。教室に漂っていたコミュニティの中で阻害されてしまうのではないかという緊張感や、阻害されてしまうことへの恐怖が、現実には確固たるものとしてあるからだ。

あの頃、教室にいて感じていた空気感、まわりと合わせなければならないという重圧。避けるのか、立ち向かうのか。様々な選択がとられていたあの学校という空間、『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』は、そこを突き詰めて描こうとする。

主人公の柏田 直輝(かしわだ なおき)は、とある事件をきっかけにオタクであることをひた隠して生活するようになった高校生。入学当初に知り合った長谷川翠(はせがわみどり)に恋をする。しかし、恋愛に関しては奥手で、知識も経験もない。不甲斐ないままに高校生活をしていた柏田だったが、ふとしたことで、同じクラスの恋ヶ崎桃(こいがさき もも)に自分がオタクであることがバレてしまう。見た目もギャル風でモデルのような姿をした恋ヶ崎だったが、意外にも彼女は柏田に、オタク趣味について自分に教えるように要求してくる。そこには恋ヶ崎がひそかに想う男の子の趣味に合わせたいという理由があり、かくして二人は奇妙な共同戦線の元、お互いの恋を応援しあうという関係をきづいていくのだが…といった内容だ。

物語の中で、デートでの立ち振る舞いを厳しく指導されたり、服装について細かくチェックされたりしながら柏田はいわゆるリア充の立ち振舞いを学び、一方の恋ヶ崎桃は美少女ゲームや同人誌などについて触れ、次第に知識を深めていく。客観的にみれば、これは完全にイチャついているとしか見えないのだけれど、2人は真剣に取り組もうとする。その空回りぶりが笑いを誘いながらも、しかしそこからかいま見えるのは、教室というコミュニティの閉塞的な空気と、それに必死に合わせなようとしながらそれに息苦しさを感じている生徒たちの姿だ。その空気自体に沿うようにすることが柏田と、その空気から抜け出せる何かを探している(かのように見える)恋ヶ崎。2人のやり取りがこの先どのような顛末を辿るのかはまだ分からない。しかし、それぞれの思惑が奇妙な結合をみせたというところに、夢想へと逃げ込まない、積極的な現実への挑戦がみてとれるのかもしれない。


果たして主人公はリア充になれるのか?

果たして彼女はオタクになれるのか?

教室内でかわされる陰口

入学式前に出会った彼女は一体?