和風×伝奇×ミステリー! 舞奏に青春を注ぐイケメンたちのメディアミックスプロジェクト「神神化身」原作が書籍化

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/2

願いの始まり 神神化身
『願いの始まり 神神化身』(斜線堂有紀/ドワンゴ)

 全国各地の郷土芸能や神事の要素を盛り込んだ伝奇小説と、和風楽曲。和風メディアミックスプロジェクト「神神化身(かみがみけしん)」が、今、大きな話題を呼んでいる。「カミ」と呼ばれる存在へ舞や音曲を奉納する「覡(げき)」と呼ばれる役目を負ったイケメンたちの物語は、Twitterおよびニコニコチャンネルのブロマガで原作が連載され、小説、楽曲を軸に、CD、書籍、ボイスドラマ、コミカライズなどを展開。キャラクターたちのモデルとなった神奈川県中郡大磯町の相模國総社六所神社や、東京都府中市の武蔵國総社大國魂神社などでは、聖地巡礼を楽しむファンも多く、今、多くの女性たちが虜になっている大注目のプロジェクトなのだ。

 本書『願いの始まり 神神化身』(斜線堂有紀/ドワンゴ)は、気鋭のミステリー小説家・斜線堂有紀さんによるその原作本。ひとたびこの物語を読めば、その世界観に瞬く間に惹きつけられてしまうだろう。全員が主人公、全員が謎。謎めいたイケメンたちの友情と宿命、熱いバトルに心揺さぶられてしまう作品だ。


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 物語の舞台は、「覡(げき)」と呼ばれる神職が「カミ」に舞や音曲を奉納することで地域の平安や願いを承認される世界。特に、3年に一度行われる「大祝宴」は、各國の覡が力をみせる最高の舞台であり、「舞奏(まいかなず)」を披露してカミを喜ばせることで、あらゆる願いが成就するといわれている宴だ。だが、大祝宴に参加できるのは、3人1組の覡を基本とした舞奏衆の中でも最も優れた2組だけ。青年たちは、大祝宴を目指して、他國の覡たちと、歌や舞の戦いを繰り広げていくことになる。

 覡となるイケメンたちは、個性豊か。幼い頃の記憶がなく、地元の食堂に住み込みで働いている六原三言(むつはらみこと)、国民的超人気アイドル・八谷戸遠流(やつやどとおる)、ゲーム実況者で舞奏の名家出身の九条比鷺(くじょうひさぎ)という幼馴染3人で構成された相模國舞奏社所属「櫛魂衆(くししゅう)」。元名探偵の皋所縁(さつきゆかり)、表の顔はバーテンダーだが裏の顔は怪盗という昏見有貴(くらみありたか)、天才小説家兼作曲家の萬燈夜帳(まんどうよばり)という異色のメンバーの武蔵国舞奏社所属「闇夜衆(くらやみしゅう)」。本作では、この2つの舞奏衆のバトルが描かれていく。

 特に目が離せないのは、ライバルとなる六原と皋の関係だ。六原には叶えたい願いがない。ただ幼馴染とともに踊れることが嬉しく、「カミ」のためにその道を極められればそれでいいと思っている。だが、探偵を辞め、とある願いを叶えるため、未経験ながらも必死に舞奏に喰らいついてきた皋は、六原のような人間を理解できない。

「これで分かった。俺はお前が気に食わないよ、六原。俺は叶えたい願いが無い人間になんか負けない。負けたくない」

 闘志を燃やす2つの舞奏衆。それぞれが葛藤しながら稽古に励む日々の果て、一体、どちらが勝利を掴み取るのだろうか。

 ひとりでは辿りつけない場所にも、仲間とならば必ず辿りつける。才能、絆、執着、因縁、宿命のライバル……。伝奇小説の形を取っているが、この作品で描かれているのは、青年たちの熱い青春の日々だ。悩み苦しみながらも舞奏の稽古に励むイケメンたちの姿は瑞々しい。その姿に胸打たれるに違いないだろう。また、彼らが織りなす舞や歌の描写は美しく、どんな舞いを繰り広げているのかと想像がどんどん膨らんでいく。小説はもちろんのこと、楽曲やボイスドラマ、コミカライズも組み合わせるとさらに楽しめるはずだ。全国各地の郷土文化や神社にも興味が湧いてくるこの作品を体感してほしい。

文=アサトーミナミ

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