17年の時を経ていよいよ完結へ! 西島大介の傑作ファンタジーコミック『世界の終わりの魔法使い 完全版』

マンガ

公開日:2022/3/25

世界の終わりの魔法使い 完全版
『世界の終わりの魔法使い 完全版』(西島大介/駒草出版)

『世界の終わりの魔法使い』は、魔法使いの少女サン・フェアリー・アンと、科学に強い少年・ムギの活躍を描くファンタジーコミック。シリーズは2005年に最初の描き下ろし単行本が発売されてから、出版社を移りつつ刊行されてきた。

 そして2022年3月、描き下ろし単行本『世界の終わりの魔法使い 完全版』(西島大介/駒草出版)の完結編である6巻が発売になる。

 本稿ライターは初期作からチェックしてきたが、ついに一区切りつくということで、本当に感慨深く、同じく今まで読んできた方は私と同じように思われるだろう。また、初めて作品に触れる方は一気に楽しむことができる。

 西島氏の描くデフォルメを利かせたデザインのキャラクターたちが、残酷でハードな世界を生きぬこうとするギャップが本作の魅力。また全エピソードを通して描かれている“影”という存在がフックになり、不思議な現実感を醸し出している。

 まずは長い間紡がれてきた、ストーリーを紹介していく。

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世界の終わりと始まりにかかわった、悪魔の血をひく少女の物語

 科学世界の人類と魔法使いが接触して「魔法大戦」が始まり、それが果てしなく続いている――そんな“とある宇宙”が本作の舞台だ。

 物語は「魔法大戦」を中心に、その過去や未来を描く複雑な構成になっている。1巻(すべての始まり)は「魔法大戦」を終わらせたサン・フェアリー・アンが封印され、1000年経過した後のエピソード。2巻(恋におちた悪魔)は遡って「魔法大戦」の時代の終わりを描き、初期3部作の完結編となる3巻(影の子どもたち)は、1巻直後から続くのだ。さらに4巻、5巻は再び「魔法大戦」の時代へ。

 1冊ごとに物語はまとまっているものの、続けて読めば、本作のスケールの大きさと奥行きが感じられるだろう。

『世界の終わりの魔法使い』は、ほぼサン・フェアリー・アンを中心に進む。アンは悪魔の血を受け継いでおり、一目置かれる存在だ。初期3部作の主人公であり、すべてのエピソードにかかわる彼女は、魔法使いの惑星・ノロにやってきて人類と戦い、ほぼすべての文明を滅ぼし、封印され、そして少年と“再び”出会い、そして……。

世界の終わりの6巻

世界の終わりの6巻

“影”という複製の生きざまと、全エピソードがつながる大団円

 次に本作のキーポイントになる、「“影”の魔法」を解説する。“影”はすべてのエピソードで物語を動かす要因になっているものだ。

“影”は、黒塗りではなく見た目は本物と寸分違わない。人物や動物のほぼ完全な複製(コピー)で、思考能力も意思もあり、オリジナルが持つ能力も付与されている。

 瞬時に、そして無限に“影”を生み出せるこの魔法は、トガリミミ族の王家だけが使うことができる(1000年かけてアンも使えるようになるが)。「魔法大戦」で兵士を無限に生成できそうなものだが、「“影”の魔法」はおいそれとは使えない。なぜなら非常に危険な副作用があるからで……。

 物語にはメインキャラクターとして、“影”が何人か登場する。彼らは思い出から再生された複製でしかないが、自由意志を持ち、恋もし、何より本気で生きぬこうとする。その決断と行動には、読んでいて胸がアツくなった。たとえオリジナルでなくても、人間の価値はどう行動したかで決定される。記憶はいつか消えることもある。しかし行動による結果は永遠なのだ。

世界の終わりの6巻

世界の終わりの6巻

“影”を生み出す魔法使いたちの想い、“影”たちの生きようとする意志は、いずれも、残酷な運命に抗おうとする強さを感じ、それが私が長い間ハマり続けてきた理由のひとつだ。「魔法世界のファンタジーラブコメ」と思って読むと、一筋縄ではいかないことに驚くだろう。

 なおこの完全版は、作品世界がより詳しく理解できる「魔法星団史」や、遊び心あふれるキャラクターたちの対談、スピンオフのショートストーリーなどを収録した豪華仕様。17年におよぶ『世界の終わりの魔法使い』の完全版に、ふさわしい内容である。

 いよいよ完結を迎える6巻(孤独なたたかい)は、かつてアンとともに戦ったネズ、アンに執着する王、そして謎の黒い少年、彼らの孤独が描かれる。すべてのエピソードが美しくつながる大団円を、ぜひ見届けてほしい。

文=古林恭

※漫画のカットはすべて『世界の終わりの魔法使い 完全版 6 孤独なたたかい』より
©西島大介/駒草出版

西島大介「世界の終わりの原画展 2005-2022」
展示期間:2022年4月13日(水)~2022年4月26日(火)※最終日は17時まで
展示会場:青山ブックセンター本店内 ギャラリースペース
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-53-67 コスモス青山B2F
https://aoyamabc.jp/

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