剛腕すぎる新ヒロイン誕生! 特許のプロ・弁理士がVTuberを守るために知略を尽くす!!

文芸・カルチャー

更新日:2022/3/4

特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来
『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』(南原詠/宝島社)

「弁理士」という職業をご存じだろうか。「弁護士」と同じ士業だが、その仕事は似て非なるもの。弁護士が争いごと全般をカバーするゼネラリストだとしたら、弁理士は知的財産のスペシャリスト。技術開発によって生まれた発明を財産として守るために特許庁への出願・登録を行ったり、権利を侵害された時に訴訟業務を代理したりする、いわば特許のプロフェッショナルだ。

 第20回『このミステリーがすごい!』大賞大賞を受賞した『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』(南原詠/宝島社)は、そんな弁理士にスポットを当てたリーガルミステリーだ。著者の南原詠さんは、現役の弁理士。その知識と経験を存分に生かしつつ、法律知識のない人にも特許紛争のスリリングな攻防を体感させてくれる。

 大鳳未来は、かつては特許権を乱用し、企業から巨額の賠償金をせしめる「パテント・トロール」だった女性弁理士。現在は新たに事務所を立ち上げ、特許侵害を警告された企業の依頼を受けている。時には法律スレスレ……いや、違法な手段を使ってでも特許紛争を収める剛腕の持ち主で、業界では「特許やぶり」としてその名をとどろかせている。

advertisement

 そんな未来の新たなクライアントは、人気VTuber・天ノ川トリィを擁する事務所「エーテル・ライブ・プロダクション」。簡単に説明すると、VTuberとはYouTubeなどの動画配信サイトで活動するバーチャルアイドルのこと。YouTuberのように生身の人間が配信を行うのではなく、人間のように動くCGキャラクターを使って動画配信を行うのが特徴だ。

 中でも天ノ川トリィは、1ヵ月に2億円もの売上を立てるドル箱VTuber。レーザーを使った高度な撮影システム、5G通信による高速データ転送により、人間さながらの表情やしぐさを表現しているうえ、歌もダンスもアクションも超一流。トリィを演じる人物も、CGキャラクターさながらの美貌を誇っている。

 だが、トリィが使用する撮影システムが専用実施権を侵害していると、ある企業から警告を受けてしまう。このままでは、トリィが活動停止を余儀なくされることに。相手の目的は金銭ではなく、トリィの活動を止めることだと推察した未来は、トリィの才能を守るために解決策を模索。警告してきた企業の情報をかき集め、背後の黒幕もろとも奇策で突き崩そうとしていく。

 アポなしで相手企業に乗り込み、ガツンと宣戦布告。早期解決のためなら、相手の弱みを握って揺さぶりをかけることも辞さない。そんな未来の戦いぶりが、とにかく痛快! 「特許権の侵害を警告された企業を守る」というと防御一辺倒のようだが、まったくそんなことはない。むしろ特許喧嘩師とでも呼びたくなるほど、ゴリゴリに攻めていくから頼もしい。味方にすれば心強いが、絶対に敵に回したくないタイプと言えるだろう。しかも、根底には「トリィの才能という財産を守りたい」という強い思いを秘めているのも、筋が通っていて気持ちがいい。やり口はむちゃくちゃだが、知略を尽くして不利な状況を覆していくさまがすがすがしく、不思議と応援せずにいられない。

 そのうえ、VTuberという目新しい題材にも興味を誘われる。「エーテル・ライブ」「いじげんたじげん」といった事務所も登場し、実在するプロダクションとは無関係ながらもVTuberに詳しい人ならニヤリとするだろう。特許権をめぐるリーガルミステリーでありつつ、お仕事小説として、企業が火花を散らすビジネス小説として、さまざまな楽しみ方ができるエンターテインメント作品に仕上がっている。

 『このミス』大賞と言えば、強気な女性弁護士を主役にした昨年の大賞受賞作『元彼の遺言状』(新川帆立/宝島社)が大ヒット中だが、『特許やぶりの女王』も負けじと猛追を見せ、発売から2週間で5万部を突破したそう。規格外の大型ヒロインの誕生に、まずは喝采を送りたい。

文=野本由起

あわせて読みたい