武田登竜門が描く処女作『BADDUCKS』、話題の読み切り『大好きな妻だった』へと受け継がれる命題とは?

マンガ

更新日:2022/3/11

BADDUCKS
『BADDUCKS』(武田登竜門/双葉社)

 ささやかだけれど幸せな生活を送る、仲睦まじい夫婦。けれど、ある日突然の病魔が妻を襲う…。ひと組の夫婦に起きた、美しくて切ない終末の物語を描いた読み切り『大好きな妻だった』は、作者・武田登竜門先生にとって記念すべき商業デビュー作品ながらTwitterでトレンド入りするなど、大きな話題を呼んだ。

 そんな『大好きな妻だった』で注目を集めた武田登竜門先生の処女作『BADDUCKS』をご存じだろうか? 2018年~2020年にかけて、「note」や同人誌即売会「コミティア」を中心に発表された本作は、圧倒的な画力とストーリーの面白さはもちろん、武田先生が2018年まで漫画を描いたことがなかったひとりの主婦である、ということも含め各所で話題をさらった。作品発表順は、『BADDUCKS』『大好きな妻だった』であるが、現在、加筆修正と描き下ろしを加えた新装版『BADDUCKS』が「webアクション」にて連載中で、処女作ながら最新作を読んでいるかのような臨場感を味わうことができる。また、今年の1月には単行本第1巻が発売され、紀伊國屋書店新宿本店では発売初日より大展開で売上1位、1カ月で約500冊を売り上げるなどヒットを記録している。

 主人公のモーガンは、幼少期に両親を亡くし孤児となるが、愛する彼女と出会い慎ましくも幸せな生活を手に入れる。けれど、親の残した借金を取り立てに来た組織によって臓器を売られ、さらには実験用の改造手術を施されてしまう。すべてを失ったモーガンは、裏の世界で生きていくことを余儀なくされるが、そこで出会ったリサに持ちかけられ、ともに組織からの逃走を試みる――。

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 改造手術を施された男・モーガン、囚われの女・リサ、さらには逃走中に金持ちから奪ったカバンに入っていた謎の赤ん坊…。処女作『BADDUCKS』で描かれるのは、混沌とした世界を舞台にした3人の逃亡劇で、卓越した画力によって紡ぎ出される緻密な世界観、そしてクライムロードムービーを見ているかのような疾走感あふれるストーリー展開が魅力的だ。

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 また、モーガンとリサ、この2人の関係にも注目してほしい。偶然出会った2人は、謎の赤ん坊を連れて旅を続ける。途中で誰かを見捨てることもできたし、ひとりで逃げることもできたはずなのに、2人は一緒にいることをやめない。出会って間もないモーガンとリサが共に旅を続ける様子からは、“理屈を超えた確かな繋がり”を感じる。

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 そして、この2人の関係は商業デビュー作『大好きな妻だった』へと受け継がれる武田先生の一つの命題のように思えてならない。

『大好きな妻だった』では、病魔に蝕まれ心身ともに変わっていく妻、そして妻を献身的に支えながらも、今までの愛情が薄れていくことに葛藤する夫の姿を鮮烈に描いた。夫婦といえども、元々は育った環境も異なれば、趣味嗜好も完全に一致することはない赤の他人。そんな2人が極限状態に陥った時に見せたのが理屈を超えた固い絆だった。

『BADDUCKS』では描かれる関係は、安心もなければ、時に裏切りがあるかもしれない…。そんな厳しさや脆さを予感させるが、2人の間には理屈では説明できない確かな絆があると信じてその旅を見守りたい。

文=ちゃんめい

©武田登竜門/双葉社

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