“SF小説”の生みの親ジュール・ヴェルヌが描くも未だ人類が到達していない場所――「地球の中身」を最新研究で解き明かす

スポーツ・科学

公開日:2022/3/17

地球の中身 何があるのか、何が起きているのか
『地球の中身 何があるのか、何が起きているのか』(廣瀬敬/講談社)

“SF小説”の生みの親といわれる、19世紀中ごろから20世紀はじめにかけて活躍したフランスの作家ジュール・ヴェルヌ。彼の生み出した数々の作品の舞台は、当時としては人類が到底行くことができないサイエンス・フィクションの世界であった。しかし現代ではその多くがテクノロジーによって到達が可能となり科学研究の対象となったことで、さまざまなことが明らかになっている。

『海底二万里』に登場した潜水艦は実用化され、『八十日間世界一周』で試みられた冒険は、飛行機の発明と交通網の発達によって誰でも簡単にできるようになり、インターネットの時代になってからは擬似的ではあるものの、家から一歩も出ずにたった1日で世界旅行が楽しめるようになった。人類は、1969年にアポロ計画によって有人月面着陸に成功、さらに遠い火星への有人探査も計画するなど、『月世界旅行』の世界を超えようとしている。

 こうした研究や技術が発達したのが、ヴェルヌが没した1905年から約100年ほどの間の出来事、と考えると、進歩のスピードは凄まじい限りだが、実はヴェルヌが描いた場所で未だに人類が到達できていないところがある。それが『地底旅行』で描かれた「地球内部への旅」だ。そんな「地球の中身」はどうなっているのか、という謎を解き明かしてくれるのが『地球の中身 何があるのか、何が起きているのか』(廣瀬敬/講談社)だ。さまざまな科学に関する書籍を出しているブルーバックスのラインナップの中でも一番深い地球の中心=深さ6400kmまで潜った世界のことがわかる本なのだ。

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 教えてくれるのは日本を代表する地球科学者であり、東京大学と東京工業大学の教授である廣瀬敬先生。専門は「高圧地球科学」で、ダイヤモンドを使った装置(ダイヤモンド・アンビル・セル装置)で地球内部の超高圧状態を再現して物質を作り出し、地球の内部がどんな状態であるのか、どんなもので出来ているのかを探っている。本書は世界的研究者である廣瀬先生が、これまでの研究成果をもとに、今の段階で明らかになっていることを丁寧に、わかりやすく教えてくれるのだ。

 地球の内部構造はよく「ゆで卵」に例えられるが、本書でもその考え方を踏襲し、外側を包む空気(大気)と海洋→殻(地殻)→白身(マントル)→黄身(核=コア)とゆで卵を剥いていくように進みながら、地球とはいったいどんな成り立ちをしているのかが順を追って説明される。

 ちなみに本書によると、人類が掘った一番深い穴は深さ12kmだそうだ。12kmといえば東京駅から中央線に乗り、山手線を貫いて反対側の新宿駅を抜け、となりの大久保駅を通過したくらいの距離(※中央線は新宿を出ると中野駅まで停まらないのでご注意を)だ。穴としては相当な深さかもしれないが、地球サイズから考えたらかすり傷にもならないほどで、まだマントルにも達していない(大陸の地殻の厚みはだいたい30~40kmだそうなので、これは中央線だと東京駅から国分寺駅~日野駅間くらいの距離に相当する)。マントルのさらに下のコアに到達するには、地表から2890km(北海道宗谷岬~沖縄県の西表島間が約2860km)の深さを掘り抜く必要がある。

 地球内部は超高温・超高圧の世界で、マントル内では岩石がゆっくり流れているという(ヴェルヌの描いたようなキノコの森や古代生物などは、おそらく地下にはいないだろう)。どうしてそんなことになっているのか、そして地震のたびに気になる「プレート」はどうして動いたり沈み込んだりするのか、コアは果たして硬いのか柔らかいのか……といった疑問は本書ですべて解消する。表面だけではなく、内部を知ることで、地球の活動は立体的に見えてくるのだ。

 しかも本書はそこで終わらない。地球がいったいどうやって出来たのかまで時計の針を太古の昔へと戻し、なぜ地球には海があるのかという疑問や、奇跡的な生命の発生にまで話が及んでいく。

 そして本書を読むと「もしかすると持続可能な社会の実現は、地球の内部が命運を握っているのではないか?」と思える箇所もある。文字通り地に足を着け、逼迫する諸問題と向き合っていくことを考えねばならないのだ。壮大な“地球の成り立ち”とその“中身”を知ることは、私たちはこれからどう生きていくべきなのかという、心の深い場所にある問題にもつながっていた。

文=成田全(ナリタタモツ)

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