「私がいる!」と共感の声多数――リアルな女性会社員の心情を描いた社会人コメディ漫画

マンガ

公開日:2022/5/26

まじめな会社員(1)
『まじめな会社員(1)』(冬野梅子/講談社)

 人は漫画やアニメ、小説などに何を求めるだろうか。無限の想像力で描かれた冒険ファンタジーという人もいれば、冴えない主人公がなぜかモテまくる恋愛コメディの人もいるだろう。しかしそういった現実にはありえない物語が好まれる一方で、最近ではごく普通の主人公が過ごす普通の生活を描いた作品も割と人気があるのだ。『まじめな会社員(1)』(冬野梅子/講談社)も、普通の女性会社員の日常をリアルに描いて共感を呼び、話題となっている作品だ。

 作者の冬野梅子氏は読みきり漫画『普通の人でいいのに!』において普通の女性の自意識をトコトンまでリアルに描き、SNSなどで大いに議論を巻き起こした。そんな氏が、今度は普通の会社員である契約社員の「菊池あみ子」を主人公として、彼女を中心にどこか生きづらさを抱えながら日々を過ごす人々を実にリアルに描き出している。

 あみ子はアプリの問い合わせに対応する仕事をこなす契約社員で、齢30。マッチングアプリを何となく続けているが、彼氏ができそうな気配はない。そんな彼女が気になっているのが、同じ会社に勤める小山綾という女性。急に金髪にしてみたり、やたらとオシャレをしてきたりと謎めいた人なのだ。ある日、あみ子が落とした本を綾が拾ったことからふたりは親しく話すようになる。そして綾が紹介してくれた「読書会」にあみ子が参加してみると、あみ子が本のチョイスで参考にしていたブログを手がける今村直之がそこにいたのであった。

advertisement

 もちろんこの展開とくれば、あみ子が直之に惹かれるのは至極当然のことなのだが、ちょっと勘のよい人ならば、綾と直之が付き合っているというところまで想像できるかもしれない。とはいえ、その事実を知ったからといって、あみ子の何かが変わるというようなこともないし、ただただ平凡な日常が過ぎていくだけなのだが……。30を過ぎて同級生たちの多くが結婚していく中、周囲の視線を気にして生きづらさを感じながらも懸命に日々を歩んでいくあみ子の姿に、共感を覚える人が多いのも分かる気がする。

 リアルな日常描写が特徴の本作だが、もうひとつ「主人公の心情の図式化」もポイントだ。物語ではあみ子のモノローグが多く差し込まれるが、その際に自分の人間関係の相関図であったり、過去の自分のグループ分けといったものが図式化されて描かれるのである。これによってあみ子の心情が分かりやすく伝わり、なんでもない会話シーンにもより深みが与えられているように思えるのだ。

 本作はあみ子の心理的描写が非常に丁寧かつ細かく、「私がいる」など共感の声が上がっているのも頷ける。もちろんこの話はフィクションだが、それは登場人物が架空であるというだけのことで、ある意味ではエッセイコミックに近い作りにも感じる。また第1巻では触れられないが、この先、物語では当然のごとく「コロナ禍」も描かれていく。あみ子はコロナ禍をどう感じて生きていくのか、彼女の「図式化」された心情も含めて気になるところだ。

文=木谷誠

あわせて読みたい