『走れメロス』『山月記』に新たな展開! もし太宰治と中島敦が、書いている途中に焼酎「赤兎馬」を飲んだら…

文芸・カルチャー

PR更新日:2022/3/18

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 文豪といえば、酒豪が多いイメージがあります。名だたる文豪たちが酒の絡んだ逸話を残しています。そんな彼らが「薩州 赤兎馬」を飲んでいたらどんな文章を書き綴ったのでしょうか?

 そこで、100人の作家の文体模写が話題となったベストセラー『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)の著者・菊池良さんに、 太宰治と中島敦をテーマに、それぞれ『走れメロス』と『山月記』をパロディにしてもらいました。

 はたしていったいどんな仕上がりに……?

 

もしも太宰治が『走れメロス』を書いている途中に赤兎馬を飲んだら

 メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

 しかし、一気に峠を駆け下りて流石に疲労し、灼熱の太陽が、かっと彼を照らし、ついに、がくりと膝を折った。ああ、真の勇者、メロスよ。ここまで来て動けなくなるとは情ない。愛する友は、お前を信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。

 ああ、もういいのだ。私は負けたのだ。地上で一番情けない男だ。ああ、セリヌンティウスよ、君と一緒に死なせてくれ──。

 ふと耳に、潺々、酒が注がれる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んだ。目の前に徳利とお猪口があった。ほどよく芋の香りがした。芋焼酎だ。

「誰だ、この私に芋焼酎を提供するのは!」メロスは天を仰いで叫んだ。

 メロスはお猪口を手に取り、赤兎馬を口にふくんだ。

「ああ、シャープさの中に、フルーティーな味わいがする」メロスは微笑した。「和洋を問わずあらゆる料理に合う、自由さに満ちた芋焼酎だ。」

 メロスは夢から覚めたような気がした。肉体の疲労回復と共に、わずかながら希望が生まれた。ああ、今のは悪い夢だったのだ。友よ、少しでも諦めかけた私を許してくれ。私は行かねばならぬ。走れ! メロス。

 

もしも中島敦が『山月記』を書いている途中に赤兎馬を飲んだら

 陳郡の袁傪という者、嶺南に向かう道の途上、残月の光をたよりに林中の草地を進んでいた。

 その時、草むらの中から人間の声で、「シャープさの中に、フルーティな味わいがある」と繰り返しつぶやくのが聞こえた。その声に袁傪は聞き覚えがあった。

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

 草むらの中からは、しばらく返事がなかった。ただ、何か水を啜るような微かな音が洩れるのみである。ややあって、低い声が答えた。

「いかにも自分が李徴である」

 はたして袁傪が草むらの中に入ると、そこにいたのは一匹の猛虎であった。袁傪が「なにを呑んでいるのか」と問うと、李徴は次のように語った。

「これは薩州の芋焼酎、赤兎馬である」

 李徴の声は朗々と響いた。袁傪は息をのみ、器を受け取って赤兎馬を啜った。忽ち、身体中にすっきりとしたシャープな味わいが立ち上がる。

 李徴は草むらを躍り出て、慟哭の声をあげた。袁傪も又、草むらを躍り出たが、既に李徴の姿は消えていた。何処からか悲泣の声が聞えるばかりであった。

 袁傪が再び李徴の姿を見ることはなかった。

文=菊池良 イラスト=岡藤真依

※飲酒後の運動はお控えください。