憧れの声優と「BLドラマ」のレッスンをすることになり……? マンツーマンの演技指導にドキドキするプラトニックBL

マンガ

公開日:2022/3/31

声が響いて優となり
『声が響いて優となり』(衿先はとじ/主婦の友インフォス)

 BL漫画のあらすじで、主人公が「BLドラマCDの受け役」で「新人声優」、その上「初仕事のために個人レッスンを受ける」と聞けば、BL作品に多く親しんできた読者なら、エッチなレッスンに展開していくことを想像するのではないだろうか。そんな予想を裏切り、驚くほどプラトニックな恋愛が描かれる作品が『声が響いて優となり』(衿先はとじ/主婦の友インフォス)だ。

 物語の主人公は、新人声優・音瀬。彼は子供の頃に大好きだった国民的ヒーローアニメの主人公に憧れ、声優業界に足を踏み入れた。といっても声優仕事はまったくなく、アルバイトをする日々。そんな彼に突然、原作者の指名によるBLドラマCDの受け役の仕事が舞い込む。原作者は新人声優を起用したいのだという。初仕事にして主人公という大役だが、彼自身は受けと聞いても左右どちらか分からないBL初心者。そして、事務所はそんな彼を支援しつつ、昔所属していた元声優の教室の実績作りにもなればと、彼に個人レッスンを案内する。

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声が響いて優となり

声が響いて優となり

 名前も聞かずに教室に足を運んだ音瀬は、彼が子供の頃大好きだったアニメ「ウルフズヒーロー」の主人公を演じた酒井が現れたことに驚く。ウルフズヒーローはオリジナルアニメとして異例の大ヒット、酒井はルックスも相まってアイドル並の人気を博していたが、アニメの最終回以降表舞台から忽然と姿を消してしまった。そんな憧れの対象でミステリアスな酒井が、マンツーマンで演技指導をしてくれるという。原作を開きながら、机で向かい合いラブシーンを演じる。うまく喘げない音瀬のために、酒井は耳元まで顔を寄せてセリフをつぶやく。まるで本当にキスをされているかのような高揚、顔を赤らめながら喘ぐ音瀬の表情はエロティックだ。

声が響いて優となり

声が響いて優となり

 しかし、そんなドキドキするシーンでも、酒井は決してマスクと手袋を外さない。意外と面倒見がよく優しい彼は、しかしどこかで他人と距離を置いているような表情を見せる。それは、彼なりのエチケットであった。酒井はHIV陽性だったのだ。まっすぐな音瀬に心揺れて、思わず事実を語った酒井。それに対して音瀬は、時間をくださいと一旦帰る。「治らない病気じゃなかったっけ…」と戸惑う音瀬は、正しい知識をつけようとHIVについて調べはじめる。

声が響いて優となり

声が響いて優となり

 HIVに対する偏見や知識のなさ、それゆえに無意識に抱いてしまう不安などを主人公が自覚していく過程が生々しい。そして、現代におけるHIVの正しい知識について描きながら、彼らふたりの関係性や物語の強度が失われていないのが凄いところだ。純朴でまっすぐでちょっと強引な音瀬と、そんな彼を拒みきれずなし崩し的に距離を詰められていく酒井、ふたりの関係性に萌えてしまう。彼らのプラトニックな恋愛は今後どのような展開を迎えていくのか、楽しみな作品だ。

 また、この作品のレーベル「推す♂BLコミックス」には、他にもゲイに偏見がある昭和の頑固オヤジ(65歳)と、家事が得意な魔性の男(53歳)の奇妙な同居生活を描いた作品『銀次と桃田』(柳沢ゆきお)も発売中。ちょっと異色なBL作品を読みたい方々はこれを機に読んでみてはいかがだろうか。

文=園田もなか

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