刑務所に勤める「刑務官」は、一体どんな仕事をしているのか? その知られざる実体に迫る一冊!

マンガ

公開日:2022/3/31

世界が青くなったら
『刑務官たちが明かす報道されない刑務所の話』(一之瀬はち/竹書房)

 読者諸氏は、「刑務所」についてどれくらいご存じだろうか。普通はお世話になる機会がほとんどないだろう施設なので、大体「犯罪者が収監される場所」くらいの認識までの人が多いのでは。もちろん犯罪者が入る施設ゆえにあまり公にできない事情もあろうが、刑務所自体、報道されることが少ないのでそれもやむを得ないのかもしれない。しかし当然ながら刑務所にも働いている人たちはいるわけで、日々、さまざまなことが起こっているのである。『刑務官たちが明かす報道されない刑務所の話』(一之瀬はち/竹書房)では、基本的に知られることのない刑務所での業務などが現場の職員たちによって語られている。

 まず刑務所には「刑務官」と呼ばれる職員たちが勤務している。一般人の中には「刑務官は受刑者が逃げないように見回りをしているだけ」なんて考えている向きもあるようだが、決してそんなことはない。彼らの仕事は多くの部署に分かれており、それぞれが非常に大変な業務に従事しているのだ。本書では中規模の刑務所を例に、部署の違う7人の刑務官が自らの仕事について詳しく教えてくれる。本稿では特に気になった業務について、ピックアップして紹介していこう。

【教育担当】受刑者を矯正して、社会復帰させる刑務官

 刑務所において、さまざまな「教育」によって受刑者たちを矯正するのが「教育担当」である。たとえば薬物が体に及ぼす悪影響や犯罪被害者の気持ちなどを教えることで、受刑者たちが正しく社会復帰できるようにするのだ。面白いのは「暴力団離脱指導」における「金銭感覚の乱れ」の矯正。刑務所では受刑者はさまざまな刑務作業を行ない、その作業には「報奨金」が支払われる。それを使って必要な物を購入することになるのだが、その際に「おこずかい帳」へ用途を記入していくのである。これによって正しい金銭感覚を養い、一般社会への復帰を目指すのだという。コワモテの暴力団員がおこずかい帳をこまめに付けるさまは、なかなかにほほえましい絵面である。

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【医務担当】病気になった受刑者たちを治療する刑務官

 受刑者であっても当然、病気になることはある。そのときに出番となるのが「医務担当」の刑務官だ。刑務所には「矯正医官」と呼ばれる医師の資格を持った公務員がいるのだが、地方によってはいないこともあるという。その場合は一般の医者に往診を頼むのだという。刑務所では内科、外科や歯科などさまざまな受診が可能だが、そのハードルは高い。まず受刑者は「願せん」(願い出を書いて提出する書面)で診察の要望を提出しなければならない。それを刑務所側が判断するのだが、歯科など人気の場所は予約が集まり1年待ちくらいになってしまうのだ。また受刑者の中には治療の途中で刑期が満了となり出所したが、後の治療が受けられなくなったため、あえて犯罪を犯して「戻ってくる」ケースまであるというから驚きだ。

【管区警備機動隊】刑務所内のあらゆるトラブルを請け負う刑務官

 実は基本的に多くの刑務官は非武装である。では刑務所内でトラブルが発生したときはどうするのか。そのときは「管区警備機動隊」(通称「管機」)と呼ばれる実力部隊が出動するのだ。彼らは警棒や催涙スプレーの携帯が許されており、すさまじい機動力と武力でトラブルを速やかに鎮圧するのだという。また非常時に備えた「非常訓練」も管機には課される。これは天災などで刑務所が破損したりした場合、重機やエンジンカッターなどの装備を使って対応できるようにするためだ。近年では復興の手伝いにも駆り出されたそうで、管機の仕事は多岐に亘るのである。

 本書では、本稿で紹介したほかにも多くの部署で働く刑務官が紹介されている。そして総じていえることは、どの部署も非常にハードであるということだ。受刑者は犯罪を犯した者たちであり、中には気性の荒い人物も少なくないだろう。そんな苦労多き刑務官たちではあるが、その活動を我々はほとんど知らない。本書を読んで、少しでも彼らの働きに対して思いを馳せたいものである。

文=木谷誠

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