楽しいはずの家族旅行が悪夢に。我が子をさらわれた両親の奪還劇『無邪気な神々の無慈悲なたわむれ』

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/2

天国からの宅配便
『無邪気な神々の無慈悲なたわむれ』(七尾与史/二見書房)

 作家・七尾与史氏はユーモアがあるのに、軽さを感じさせないミステリ小説を多数手がけている。デビュー作となった『死亡フラグが立ちました!』(宝島社)や「ドS刑事」シリーズ(幻冬舎)など、その手から生み出される物語には、独特な魅力がある。

 そんな七尾氏が、この度、世に放った『無邪気な神々の無慈悲なたわむれ』(二見書房)は、これまでとは違った作風でありながら、ページをめくる手が止まらなくなる、スリリングな1作。

 舞台は、子どもが神として崇められている不思議な島。そこで繰り広げられる、生死をかけたたたかいに世の大人は恐れ、慄く。

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子どもを神と崇める「児宝島」へ。楽しいはずの家族旅行は悪夢に…

 子どもに恵まれなかった辻村京子と正樹の夫婦は、偶然目撃した交通事故で生き残った少年・瑠偉を養子に迎え、幸せな日々を送っていた。

 3人はある日、家族旅行で「児宝島(こだからじま)」へ行くことに。児宝島は、島の名前通り、子どもを宝としている島。「仔羅教」という宗教観が強く根付いており、島では、毎年5月5日の子どもの日に、8歳になった子どもの中から島の「生き神様」を選ぶという習わしが。今は「聖彌」という少年が生き神様になっていた。

 島への道中、京子たちはフェリーが故障して立ち往生していた鶴見夫妻に遭遇。一緒に島へ向かうこととなった。

 天候にも恵まれたから、楽しい家族旅行になるに違いない。そう思っていたが、現地に到着した京子たちが目にしたのは、どこかおかしい島の有り様。島内は圏外で携帯電話や無線が通じず、なぜか大人はひとりもいない。島の子どもたちはどこか気味悪く、自分たちを監視しているように感じられた。

 この島で、一体何が起こっているのか。そして、大人たちは子どもを置いて、どこへ行ってしまったのだろう。疑問に思った京子と正樹は、島を調べることに。

 すると、猟奇的な殺され方をした大人の遺体を次々発見。どうやら、犯人は島の子どもたちのようだ。子どもたちは、なんらかの理由によって異変が生じ、大人を襲うようになってしまっていたのだ。

 子どもたちの無邪気な悪意は、やがて京子たちにも向けられ、夫妻は命の危険を感じるように。そんな危機的状況の中、最愛の息子・瑠偉が何者かにさらわれてしまい、京子と正樹は息子の奪還と、島からの脱出を試みるのだが…?

 我が子がいるからこそ、子どもとたたかわなければならない状況に葛藤を覚える京子と正樹の姿は、大人の私たちにとって心に刺さるものがある。

 自分や家族の命を守るために、本来ならば自分たち大人が守るべき「子ども」に立ち向かわなければいけない苦しみは想像を絶する。もし、自分がそうした場面に遭遇したのならば、どんな選択をするだろうかと、つい考え込んでしまった。

 なお、本作には残酷な描写があるため、スプラッターホラー小説にあまり馴染みがない方は心して手に取ってほしい。

 無邪気だからこそ恐ろしい子どもたちの悪意を向けられた京子たち。その脱出劇は果たして、どんなラストを迎えるのか。ぜひ、七尾氏が作り上げた世界観に浸りながら、衝撃の結末を見届けてみてほしい。

文=古川諭香

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