新たな装いでよみがえる伝説的名作――奴隷の少女と「夜の王」をめぐる絶望と再生の物語

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/31

天国からの宅配便
『ミミズクと夜の王 完全版』(紅玉いづき/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 それまで見慣れていたライトノベルの表紙とは一線を画す、おとぎばなしを思わせるカバー。ページをめくれば、「ミミズク」と名乗る人間の少女と魔物の「夜の王」を中心とした、愛おしくもあたたかい物語が紡がれる――。

 2007年に電撃文庫から発売された、紅玉いづき氏の鮮烈なデビュー作『ミミズクと夜の王』。長きにわたり愛されてきた伝説的な名作が、このたびメディアワークス文庫に移籍し、装いも新たに『ミミズクと夜の王 完全版』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)として刊行された。完全版のカバーを手掛けるのは、イラストレーターのMON氏。月明かりに照らされた夜の王の妖麗な姿が、読者を深い森の奥へと誘う。

 手足に枷と鎖をはめられて、額に「332」という焼き印をつけられた少女・ミミズク。彼女は魔物がはびこる夜の森に足を踏み入れて、「夜の王」と呼ばれる人間嫌いの魔王と出会う。奴隷として虐げられて生きてきたミミズクは、夜の王に自分を食べてほしいとお願いするが、魔王は人間である彼女を相手にしない。死にたがりの少女と、壮絶な過去を経て夜の王となった魔物は、次第に心を通わせていく。だが2人の生活は、国王が命令した魔王討伐によって壊される。夜の王に記憶を消されたミミズクは、聖騎士アン・デュークに救出され、森から連れ出された。そして討伐された夜の王は、ひそかに王宮の中で拘束され、とある目的のために魔力を搾り取られていく……。

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 アン・デュークと彼の妻に慈しまれ、人間社会の中で居場所を見出したミミズク。だが記憶を取り戻した彼女が求めたのは、人間ではなく夜の王だった。自分を受け入れてくれた人たちの優しさを理解したうえで、夜の王を救おうと大きな決断を下す少女は、何もかもを諦めていたそれまでの自分と決別する。そんなミミズクの思いを受けとめて、わかりにくい優しさをみせる夜の王。ほかにも、夜の王の下僕でミミズクを気にかける魔物のクロや、ミミズクにとって初めての友人である王子・クローディアスなど、物語には魅力的なキャラクターが多数登場する。ミミズクと夜の王が選んだ結末と、彼らを取り巻く人々の思いを、ぜひ見届けてほしい。

 完全版には、これまで電子版のみが発売されていた外伝『鳥籠巫女と聖剣の騎士』もあわせて収録されている。『鳥籠巫女と聖剣の騎士』は聖騎士アン・デュークと、彼の妻で聖剣の巫女・オリエッタを中心とした前日譚にあたるが、このたび加筆修正がなされ、ミミズクと夜の王のその後の姿も追加された。15年という歳月を経て、さらなるはばたきをみせた『ミミズクと夜の王』。本作はこれまでも、そしてこれからも人々の心を震わせ、そして愛されていくだろう。

 電撃文庫版の読者、そして今回初めて物語に触れる人、どちらにとっても満足度の高い内容に仕上がっている完全版。本作は、「紅玉いづきデビュー15周年記念・3カ月連続刊行」の第1弾にあたる。4月22日には、姉妹作にあたる『毒吐姫と星の石』の完全版も刊行され、こちらも『ミミズクと夜の王』ファンにとって必見の1冊だ。

文=嵯峨景子

『ミミズクと夜の王 完全版』詳細ページ
https://mwbunko.com/product/322109000396.html

紅玉いづきデビュー15周年記念・3カ月連続刊行
https://mwbunko.com/blog/news/entry-11277.html

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